一瞬の煌めきが、永遠へと変わる『隣のサンズイ』レビュー


幼なじみの流(道川内蒼)と涼(小原澤遼典)は大学生になってもいまだに子供時代のようにふざけ合い、笑い合う日々を送っていた。時には流の恋人、菜奈(大畑優衣)も加わり河川敷で花火に興じたり、海へドライブに出かけたりと充実した毎日を過ごしていた。だが就職活動に追われ、それぞれが社会人となると2人の関係は少しずつ変わっていった。そんな時、流の元に一本の電話が入る。それは流にとって全く思いも寄らない内容だった。

『隣のサンズイ』は俳優として活動する道川内蒼が自身の体験をもとに初めて手がけた監督作品だ。「特別な友人に伝えたいことがある」という思いで製作された本作は、2人の友人の非常に近しい関係がベースにある。

子供の頃からの友人、流と涼は流の恋人の菜奈を交えて3人で遊ぶほど今でもとても仲が良い。共に就職活動に精を出し、海を見ながら将来について語り合い、隣にはいつもお互いがいた。社会人になると環境は著しく変わり、それぞれが仕事をもつ忙しい日々。流は菜奈と暮らし始めたが涼とは中々会えずにいた。時折聞く電話の声は変わらず明るいが、涼とはわざわざ約束をして会うような関係じゃないんだ。約束なんて不自然に思えるほどいつも一緒にいたのだから。

だがそんな日々はすっかり変わってしまった。流が永遠と思っていたものは、そうではなかったのだ。戸惑いながら過ごす流はかつて涼と過ごしたあの夏の海辺へと、再び車を走らせる。

自分が見ていた涼は本当の涼だったのか?自分は涼のことを何ひとつ知らなかったのではないか?様々な想いが流の脳裏を駆け巡り、涼と過ごしたありとあらゆる場面が映画のワンシーンのようにフラッシュバックする。そうだ、答えはそこにある。そこにしかないのだ。涼がどんな選択をしたとしても、それを後付けで他人が何と言おうが答えは一緒に過ごした時間の中にしかなく、それだけが唯一信じられるものだ。

当たり前にそこにいる空気みたいなアイツについて悩んだり後悔したりなんてしたくなかった。ましてや、アイツへの気持ちを再確認するなんて照れ臭くて仕方ない。そして流はある決断をする。それは涼とは全く違った形だったが、きっと涼は笑って受け入れてくれるだろう。あの夏の日々は今もまだ2人の中で続いているのだから。

本作は監督・脚本に加え主人公・流役を演じた道川内蒼、友人の涼を演じた小原澤遼典、流の恋人・菜奈を演じた大畑優衣、撮影の池田啓将の4人が中心となりチームで撮影から宣伝・配給まですべてを行った自主映画だが、『はままつ映画祭2023 大賞』、『第8回杉並ヒーロー映画祭 観客賞』、『第22回中之島映画祭 優秀賞』、『第22回うえだ城下町映画祭 入選』など数々の国内映画祭で受賞・入選を果たしている。そして撮影から3年を経てこの度インディーズ映画の聖地と呼ばれる池袋シネマ・ロサでの上映が決定した。

少しでも多くの人に届けたい、そう願う気持ちが叶えた3年越しの劇場上映。大切な人への想いを描きながら是非鑑賞してほしい。

文 小林サク

『隣のサンズイ』
監督・脚本・編集: 道川内蒼
キャスト: 道川内蒼 小原澤遼典 大畑優衣
(C)「隣のサンズイ」製作委員会
池袋シネマ・ロサにて2025年9月13日(土)〜9月26日(金)公開

 

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