今、それぞれの人生の幕が上がる『雨ニモマケズ』レビュー
ゴスペル、その言葉自体を聞いたことはあるし、楽しそうに合唱する人達を目にしたこともある。けれど一体どんなもの?と聞かれるとすぐに説明が出来ないのではないだろうか。
アメリカで誕生したゴスペルは黒人霊歌をルーツに持ち主に黒人協会で歌われてきたが、アメリカでは歌う人はほぼキリスト教徒であるのに対し日本でゴスペルを歌う人はほぼキリスト教徒ではないと言う。日本で独自の発展を遂げたゴスペル音楽と、そこに携わる人々の姿を生き生きと綴った今までにない音楽映画が誕生した。
一年前にこの世を去った著名なゴスペルディレクター、増渕麗(東ちづる)を偲ぶためメモリアルパーティーが開催されることになった。彼女と交流があった関係者や教え子、多数のゴスペル合唱団が集結し今まさに華やかな舞台の幕が上がろうとしていたが、その裏では様々な問題が持ち上がっていた…。
スタッフの南(安野澄)は朝から息つく間もないほど多忙を極めていた。もうすぐ開演だというのにトラブル対応に追われっぱなしなのだ。日本のゴスペル界の重鎮・前橋(梅垣義明)が突然会場に現れ、パーティーに招待されていないと怒りをぶちまける。何とかその場を収めたものの、増渕の教え子でシンガーソングライターのユイ(南條みずほ)が到着するとユイのマネージャー・鎌田(山中アラタ)が出演者と一悶着を起こし南は巻き込まれてしまう。
一方、ゴスペルシンガーのミナト(上村侑)は複雑な思いを抱いていた。ミナトのゴスペルスタイルを認めず、対立している父親の姿を会場に見つけてしまったからだ。PAの大関(深来マサル)は妻のことが気になり、なかなか仕事に集中できない。実は妊娠中の妻が陣痛を起こし病院に向かっている最中なのだ。強がる大関を部下の安田(神林斗聖)は心配そうに見守っている。
合唱団のメンバー・大泉(福谷孝宏)は同じ合唱団の夏川(富岡英里子)の気を引こうと必死だが、そこへ妻の信子(和田光沙)が乗り込んでくる。二人の仲を怪しむ信子に焦る大泉だが…。
そんな喧騒から離れ静かに開演を待つのは増渕麗の息子・タツヤ(諏訪珠理)だ。母が遺言に残したこのメモリアルパーティーに特別な想いで臨んでいた。
総勢22名の役者達が織り成すそれぞれのエピソードは多種多様の喜びと葛藤に満ちている。誰にもその人にしかない人生の色がありそれは開演に向け一つの音色のように溶け合って行き、そしてついに、パーティーの幕が上がる!
個性的な登場人物の面々を演じたのはバラエティー豊かな俳優たちだ。関係者や出演者たちに時に困惑し時に怒りながらも軽やかに会場を駆け抜けるスタッフ・南の存在は観る者の心の拠り所であり清涼剤だ。透明感とひたむきさ溢れる南を演じたのは、テレビドラマやCMで活躍する安野澄。不思議な魅力を放つ青年・タツヤを諏訪珠理、若手ゴスペルシンガーで父親との確執を抱えるミナトを上村侑と若手俳優たちが顔を揃える中、ちょっと厄介なゴスペル界の重鎮・前橋に梅垣義明、今は亡き人気ゴスペルディレクター・増渕麗に東ちづるとベテラン俳優陣も豪華なラインナップだ。
日本のゴスペル界を牽引してきた淡野保昌、日本で活動するスペイン出身のゴスペルシンガー・MARISAも出演している。監督は日本最大のゴスペルイベント「横濱ゴスペル祭」の主催をはじめ各地でゴスペルイベントを企画・運営しており、本作が監督二作目となる飯塚冬酒が務めた。
馴染みがありそうでなさそう、そんなゴスペルを身近に感じられる本作。登場人物たちの人生模様と共におすすめしたい。みんな色々あるけれど、歌って笑って生きていこう!
文 小林サク
『雨ニモマケズ』
出演:安野澄 / 諏訪珠理 / 上村侑 木村知貴 / 山中アラタ / 中野マサアキ / 和田光沙/ 福谷孝宏 / 深来マサル / 山崎廣明 / 宇乃うめの / 三森麻美 / 片瀬直 / 富岡英里子 / 笠松七海 / 生沼勇 / 神林斗聖 / 南條みずほ / 小寺結花 / 尾込泰徠(子役)
梅垣義明/ 東ちづる(特別出演) 監督:飯塚冬酒
製作・配給:ガチンコ・フィルム
(C)GACHINKO Film
公式サイト http://g-film.net/ame/
2025年2月8日より新宿K’s cinemaほか全国順次公開