悲しみも嘘も吹き飛ばす優しさを『エレノアってグレイト。』レビュー


エレノア(ジューン・スキッブ)は親友のベッシー(リタ・ゾーハー)と長年同居していたが、ベッシーが突然亡くなってしまう。喪失感を抱えたエレノアは家族と暮らすため故郷のニューヨークへ数十年ぶりに帰ってきたが、娘も孫も忙しくエレノアにかまけている時間がない。
暇を持て余すエレノアはたまたま出かけた 先でホロコースト生存者の自助グループの会に迷い込んでしまう。訂正しそびれたエレノアは求められるままに、かつてホロコーストを生き延びた亡き親友ベッシーの記憶を自分の経験であるかのように話してしまった。同席していたジャーナリスト志望の学生ニナ(エリン・ケリーマン)は壮絶な経験談に感銘を受け、エレノアを慕うようになる。年齢差を超えたニナとの新たな友情に胸が弾むエレノアだったが、彼女の嘘は思わぬ騒動に発展していく。

人気俳優のスカーレット・ヨハンソンがキャリア初の長編映画監督とプロデュースも兼任し生み出したのは、一つの嘘をきっかけに出会った老婦人と女子学生が紡ぐ友情の物語だ。
二人を結び合わせたのは“大切な人の死”という喪失の体験だ。家族同然の親友を亡くしたエレノアと、母を亡くし父との関係もギクシャクしているニナは、お互いの心に開いた穴を埋め合うかのように急速に仲を深めていく。
明るくエネルギッシュなエレノアは年齢を感じさせないユーモアと明敏さで、ニナと同年代の女子学生のような軽妙なやりとりを繰り広げる。自分の気持ちを抑えがちなニナにとってはうんと年上だけれど、同じ目線で寄り添ってくれるエレノアとの時間が大きな励ましになってゆく。年齢差を超えた二人の友情はとびっきり微笑ましくてチャーミング。どうかこのまま二人の幸せな時間が続きますように…そう思わずには居られない。

この作品が愛らしく温かなのにそれでも何故かずっと切なさを感じてしまうのは、きっと根底にあるのが“悲しみ”だということ。かけがえの無い友人や家族を亡くしたエレノアとニナの悲しみ、戦争がベッシーの人生にもたらした悲しみ、ホロコーストを生き延びた人々が抱えてきた悲しみ…それらはこれからも決して消えることはない。それでもひたむきに生き、誰かと心を通わせ、また前を向こうとする人々の姿が愛おしい。

エレノアの語った経験談は多くの人の心を動かし、ホロコーストを生き抜いた女性として世間に知られることとなるが、それ故に真実が明らかになる時が来てしまう。その時ニナは、周囲の人々はどうするのだろう。
この作品は悲しみの物語であると同時に、友情と共感の物語でもある。母の死で心が曇り、自分の殻に閉じ籠もっていたニナは、エレノアとの交流を通して他者が心に秘めた悲しみや孤独を深く理解し、分かち合えるようになる。そんなニナならばエレノアがベッシーの人生を自分の経験として語った意味をきっと理解してくれると信じたい。

主役のエレノアを演じるのは『テルマがゆく!93歳のやさしいリベンジ』(23)でテルマを演じたジューン・スキッブ。96歳でいまだ現役バリバリの俳優で、底抜けに明るく憎めないエレノアをキュートに演じている。エレノアと友情を育むニナを演じるのは、『28年後…』シリーズのエリン・ケリーマン。エレノアとの友情を通して真面目で誠実なニナの雰囲気が次第に爽やかな軽やかさを帯びていく。
エレノアの親友ベッシーを演じたリタ・ゾーハーは『アマデウス』(84)、『ウォーターワールド』(95)などに出演した俳優だが、彼女は第二次世界大戦中、ルーマニア(現・ウクライナ)のトランスニストリア県の強制収容所で生まれその後ルーマニア、イスラエル、アメリカなど移住を繰り返しながらキャリアを積んだ、ホロコースト生存者である。彼女の口から語られる経験は真実がもつ深い重みをもたらしている。

悲しみに寄り添うこと、誰かと一緒に過ごす時間、年代や立場に関係無く他人の気持ちを想像すること…たくさんの大切な事に気づかせてくれる切なくて、とびっきりに優しい物語だ。

文 小林サク

『エレノアってグレイト。』
監督:スカーレット・ヨハンソン
キャスト:ジューン・スキッブ、エリン・ケリーマン、ジェシカ・ヘクト、リタ・ゾーハー、キウェテル・イジョフォー
© 2025 ELEANOR INVISIBLE FILM, LLC AND TRISTAR PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:東映ビデオ
2026年6月12日(金)より新宿バルト9、シネスイッチ銀座、ユーロスペースほか全国順次公開

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