日々を生きる。それだけで良い『おててつないで』レビュー
須永義久(金子清文)は看護助手の仕事をしながら31歳の娘、唯(菅原雪)と一緒に暮らしている。唯はどこか冷たい態度で義久に接していたが、義久も必要以上に唯に干渉はせず二人はドライな関わりしかなかった。
ある日義久は勤務先の病院で失態を犯し、解雇を言い渡されてしまう。それを聞いても唯はあまり深刻に捉えていなかったが、義久はかなり追い込まれていた。その後体調を崩した義久が入院することになるが、見舞いに訪れた唯にある秘密を打ち明け、それを機に二人の関係は変わらざるを得なくなる。

晩酌が唯一の楽しみな父は一杯やりながら寝入ってしまうこともあるが、そんな時も娘の夕食の準備は欠かさない。一方娘は父に辛辣な言葉を投げかけるくせに、生活費の支払いが滞るなどどこか甘えた態度を見せる。体調不良で動けなくなるも、「救急車で運ばれるのを見られたくない」と娘に早く出かけるよう急かす父と、入院中の父に「見舞いは明日で良い」と言われると「じゃあ明日にしよう」と先延ばしにする娘。娘に気を遣う父と大人になりきれない娘の関係はぎこちなく可笑しい。
しかしそんな関係性は父が告白した秘密により一変する。何となく避けていたお互いの存在に向き合わざるを得なくなるのだ。体調を崩した父と、金銭的余裕のない生活、すわここから悲惨な展開に…と予想してしまうがそれは見事に裏切られる。ここが本作の魅力なのだが、登場人物たちの受け入れ力が半端ないのだ。
解雇された上、体調不良で入院する父と、経済的負担が増えた上、退院した父の世話をせねばならなくなる娘。お互い自暴自棄になり言い争いが起きても仕方ない状況だが、彼らは驚くほど落ち着き淡々としている。父娘ともにそれぞれ悩み、戸惑いながらもネガティブな感情を撒き散らすより今ある現実を受け入れやるべきことを粛々とこなしていく。退院後の父は足腰が弱っておりわずかな距離も助けなしには満足に歩けず、トイレも介助が必要になるが、ここでも父娘は変わらずにいる。

窮地に陥った時、追い詰められた時、嬉しくない出来事が続いた時、ただやるべきことをやる。それは出来そうで中々出来なくて目の当たりにすると何だか感動してしまう。特別な事は起きず、何ならちょっと灰色な毎日が続いていく中でも淡々と生きていくのはそれだけで物凄く格好良い。飾り気のない人間の逞しさ、生命力をひしひしと感じるからだろうか。
本作は俳優として活動する菅原雪の初監督作品で、菅原は監督のほか主演・脚本・製作・撮影など合計26個もの役職を担当している。不器用で温厚な父・義久を『深夜食堂』シリーズなどで知られるベテラン俳優、金子清文が演じ、父に対して素直になれない娘・唯を菅原監督が演じた。本作は2025年『第26回TAMA NEW WAVEある視点部門』に入選している。
余談だが、唯の彼氏(黒澤多生)の対応力も相当にハイレベルだ。ネガティブに傾かず、かといってむやみに前向きに引っ張ろうともしない。重い話の後にも「このコロッケ美味しいよ」と言ってくれる人がいる幸せ。もしかしたら、つまらない日常にも宝石のように煌めく瞬間があるかもしれない。ちょっとだけ、そう思わせてくれる作品だ。
文 小林サク
『おててつないで』
監督・脚本・製作・撮影・録音・照明・編集・音響効果・整音・美術・小道具・フード・ボルダリング監修・車両・画コンテ・グレーディング・メイキング・予告編・プロデュース・企画・原作・キャスティング・制作・配給・宣伝協力:菅原雪
キャスト:金子清文、菅原雪、黒澤多生、用松亮、つちやりさ、木村もえ
©︎おててつないで
2026年1月24日(土)より池袋シネマ・ロサにて1週間限定公開