日々を生きる、働く人たちへ『ただ、やるべきことを』レビュー


パク・クネ大統領の退陣を求める大規模な「ろうそくデモ」が行われていた2016年、韓国。造船業は世界的な不況によりリストラや廃業が多発していた。漢陽重工業に勤務するジュニ(チャン・ソンボム)は人事チームに異動してきたばかりだが、会社がリストラを決定したため早々にリストラ対象者の名簿作成を指示される。ジュニは会社の再建のためと自分に言い聞かせ仕事をこなしていくが、かつての上司と先輩どちらかをリストラ候補に選ばなければならない状況に追い込まれる。

会社と個人の感情の狭間で葛藤する人事チームの苦悩を描いた本作の主人公は入社4年目の若手社員、ジュニ。恋人のジェイ(イ・ノア)とは結婚間近で、ジェイのお腹には子供がいる。ジュニは社内ローンで既に家を購入しており、会社を辞めるわけにはいかない。そんな中飛び込んできたのはリストラ決定の一報。昨春既にリストラを行っているにも関わらず経営が上向かず、債権団に詰め寄られた会社側がやむなく再度の人員整理を決めたのだ。

会社を立て直す為にとリストラ対象者を選別するジュニだが、効率を上げるため設定した選別条件が波紋を広げることとなる。個人の評価に加え、昇進年限と学歴を追加したため社内で反発が起こった上、意図せず人事チームのソン(チャン・リウ)もリストに含まれてしまう。書類上の処理が現実の他人の人生に影響を及ぼすことをジュニは痛烈に思い知る。
ジュニの以前の所属部署の選別が行われ、チャン部長(カン・ジュサン)とイ課長(キム・ナムヒ)が候補に挙がるが、ジュニにとって二人とも良き上司であり先輩であった。人事チームのチョン部長(キム・ドヨン)は二人をよく知るジュニにどちらをリストラ候補とすべきか、過酷な問いを投げかけてくる。

人事とはいえ辛い職務を遂行しなければならない、ジュニ始めチームメンバーの深い苦悩が淡々と描かれる。リストラ対象者からしてみれば人事チームは会社側の人間、敵であるが、彼らも会社の代理として職務を果たしているだけなのだ。会社側の立場にありながら雇用される社員でもあるという苦しい状況に、チーム全体が疲弊していく。ジュニは己の行為を恥じるあまり恋人のジェイにすら本心を語れなくなってしまう。

会社と個人の相容れなさの象徴として、社員に対する評価判断の身勝手さも繰り返し描かれる。規定条件で選別されたはずの対象者リストを会社の都合で調整し直す場面もそうだ。リストラという非情な状況だからこそ公正さを保たねばならないはずだが、不可解な理由で特定の人物は残すという不合理さ。希望退職を迫られたと激昂する社員も、対象者リストのボーダーラインにいることを知るジュニから頑張るよう諭されるイ課長も、声を揃えて言う「自分は頑張っている」と。
そう、独身だろうが既婚だろうが性別問わず、退職間近だとしても働く者は皆、頑張っている。リストラがなければきっとこのまま働き続けていたであろう人々を「頑張っていない」こととして切り捨てているのだ。リストラはそういうものと言えばそれまでだが、従業員たちが捧げた献身の日々が、一方通行の思いが、余りにも切ない。

『君の結婚式』(18)などのチャン・ソンボムが主演を務め本作で『第28回釜山国際映画祭』で今年の俳優賞を受賞した。口下手だが思いやりと信義をもつ青年ジュニを、静かだが確かな存在感で演じきった。本作が長編デビュー作となるパク・ホンジュン監督は、自身が実際に造船所の人事チームで勤務した経験を基に本作を執筆した。

この映画には全てを解決する魔法の方法や、頼りになるヒーローは出てこない。目の前に広がるのはありのままの現実だけだ。リストラを行う側の人事チームと、リストラされる側の社員たち、誰もが各々の立場で現実に向き合いやるべきことを決断していく。人生の困難さに対応しようとする人々の姿を描いた簡素で飾り気のない、だがとても力強い映画だ。

文 小林サク

『ただ、やるべきことを』
2026年1月17日(土)ユーロスペースほか全国順次公開
監督・脚本 パク・ホンジュン
出演 チャン・ソンボム ソ・ソッキュ キム・ドヨン キム・ヨンウン チャン・リウ イ・ノア カン・ジュサン キム・ナムヒ
©Nareun Cinema / Myung Films Lab.

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