何だか無性に、広島へ行きたい『シケモクとクズと花火と』レビュー


広島の居酒屋「まめすけ」でアルバイトをしているフリーターの杉山末子(遠藤祐美)、34歳。夢もなく恋人もいない、テレビを見ながら他人や世の中に毒づいてはストレスを発散する冴えない日々を過ごしていた。そんな中、新人アルバイトとして彼女の前に現れた山根朔人(仲野温)はコミュ力抜群のインフルエンサーで容姿端麗な大学生。性格が正反対の二人は出会った初日に早くも反発し合ってしまう。

ある日居酒屋の女将・みどり(東ちづる)と大将(GIN)の不倫疑惑を興味本位で追っていた二人は、車椅子に乗ったお年寄り集団が若い男をリンチする現場を目撃してしまう。慌てて逃げ出す二人の前にアコという少女(森美雨)が現れる。

主人公の末子は34歳独身で実家暮らし、地元のひなびた居酒屋でアルバイトをするだけの日々。アルバイト先の同僚は若者ばかりで何となく居心地が悪く、素直じゃない性格はますます意固地になっていく。そんな末子の前に新人バイトとして現れた朔人はまさに天敵と呼ぶにふさわしい。

名門・広島大学の学生にして端正な顔立ち、調子も人当たりも良く末子にも親しげに話しかけてくる。恵まれた境遇ゆえの朔人の強気な態度に苛つく末子だが、一方の朔人は一見充実した日々の中、軽薄な恋愛関係や上っ面だけの生活に虚しさも感じていた。

正反対な二人が広島の地で出会い…ヒューマンドラマかラブストーリーが始まるのかと思いきや、まさかのお爺ちゃん達による集団リンチ現場を目撃!逃げ出す二人を捕らえたのはアコと名乗るミステリアスな少女。聞けばアコはお爺ちゃん達の一味の見張り役で、目撃者は抹殺されてしまうらしい。密告をしない代わりにアコの頼みを聞き入れるように言われ渋々引き受ける末子たち。

そこからアコも加わった三人組には怒涛の展開が待ち受ける。住人不明のマンションへの潜入調査、見知らぬ土地での人捜しとアコに言われるがまま思いも寄らない事態が次々と起こり、ミステリー要素も加わってぐいぐいと物語に引き込まれていく。謎めいたアコの真の目的とは一体何なのか、末子と朔人にどんな影響を与えるのか、予想もつかないストーリーは結末へ向かい更に新たな展開を見せる。

ローカル色豊か、反発し合う男女、謎の少女にミステリー…。どうかするととっ散らかってしまいそうなのに全くそんなことが無く、パズルのピースのようにそれぞれが上手く合わさり、広島弁すらも広島弁でないとこの作品が成立しない気すらしてくる。
今まで出会った良作には「ジャンルを一言では語れない」というカテゴリーがある。様々な要素が上手く絡み合い、喧嘩せずに成立していて、ラブストーリーとかアクションとかそんな言葉だけで定義ができないのだ。本作も間違い無くそのカテゴリーだ。

物語の豊かさに加え、主要な登場人物たちの魅力に惹き込まれてしまう。ヒロインのはずの末子は可愛げゼロ、現状に腐りきっているくせに抜け出す勇気もなく他人を毒づくばかり。朔人は容姿とコミュ力に胡座をかき、周囲を見下しながら世渡りと女の子にしか興味が無い。アコは自分勝手な理由で他人を巻き込み振り回す。タイトル通り「クズ」な三人なのだが、そんな彼らが時折覗かせる弱さや迷い、そして優しさ。そんな人としての揺らぎがたまらなく愛おしく、可愛らしい。

広島県を舞台にオール広島ロケで撮影された本作は『三十路女はロマンチックな夢をみるか?』(17)、『ディープロジック』(20)を手がけ、押井守監督作品『東京無国籍少女』(15)の原案などで知られる山岸謙太郎監督がメガホンを取った。
末子を演じたのは『かぞくへ』(18)の遠藤祐美、朔人は『BLUE FIGHT 〜蒼き若者たちのブレイキングダウン〜』(25)の仲野温、縦型ショートドラマ『マリア先生の復讐カウンセリング』(25)の森美雨がアコを演じた。居酒屋の女将、みどり役で東ちづるが作品に華を添えている。

変わりたいけれど変われない。そんな三人が出会い、ほんの少し時を過ごしたことで確実に何かが変わって行く。素敵な自分になれなくても、世界がバラ色に見えなくても、あの日の花火だけはほんの少し心を照らしてくれるから。

文 小林サク

『シケモクとクズと花火と』(97分)
出演:遠藤祐美 仲野温 森美雨 塚本恋乃葉 GIN / 東ちづる
監督:山岸謙太郎 脚本:弥重早希子
製作・配給:えびふらいレコーズ ©えびふらいレコーズ
2026年1月31日(土)より池袋シネマ・ロサほか全国順次公開
公式HP:https://shikekuzu-movie.com

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