春は桜の 綾衣(あやごろも) 『色道四十八手 たからぶね』鑑賞記


takarabune2春は桜の 綾衣(あやごろも) ――『色道四十八手 たからぶね』鑑賞記――

当『シネマな名古屋』でも紹介したように、シネマスコーレ(名古屋市 中村区)で“ミスター・ピンク”池島ゆたか監督『おやじ男優Z』のリバイバル上映が連日舞台挨拶を開催し劇場を沸かせている時を同じくして、名古屋シネマテーク(名古屋市 千種区)でもピンク映画の最重要作が公開されている。
作品のタイトルは、『色道四十八手(しきどうしじゅうはって) たからぶね』(配給:PGぴんくりんく)。確認できるだけで210作ものピンク映画を撮りあげた巨匠・渡辺護監督が撮影準備半ばで急逝した為、脚本を手掛けた愛弟子・井川耕一郎氏がその遺志を継ぎ見事完成させた“ピンク映画五十周年記念作品”である。「四十八手」「春画」と言う“和エロ”を題材に企画した意欲作だ。
2015年3月8日、名古屋シネマテークのレイトショーは人で溢れていた。『色道四十八手 たからぶね』の公開2日目、井川耕一郎監督と女優のほたる氏を迎えての舞台挨拶が執り行われたのだ。
takarabune3
井川「撮影のことを思い出すと、ほたるさんにはずいぶん無理なことを注文したな、て言う……」
ほたる「「これはちょっと、身体的には出来ません」みたいなことを、結構言ったな、と(笑)」
井川「本来、渡辺監督で撮る時も「春画とカットバックでやる」って話になっていたので、渡辺さんの狙いも踏まえて春画の再現をやってもらおうとする訳ですけれど……」
ほたる「どの春画をやるかを現場で見てて、「これ、再現は無理です!」って言うのが一杯ありましたよね(笑)」
井川「絵で見ると何となく成立してるんですけど、あれはヨーロッパの絵画で言えば“キュービズム”に近い絵なんですよ。本当に、ほたるさんと野村(貴浩)さんには無理をさせたな、と……当然、翌日は筋肉痛だったんでしょ?」
ほたる「ええ、まあ……色んなところが(笑)」

“レクチャー教授”の異名を取る井川監督のトークはその夜も絶好調で、ほたるさんとの息もぴったりであった。

『色道四十八手 たからぶね』Story:
江戸の町人風の男(野村貴浩)と女(ほたる)が、春画の中で様々なまぐわいを見せている。仰向けになって片足をあげた男の上に、女がまたがり、男の足にしがみつく。男の足を宝船の帆柱に見立てる。女は弁天様のよう。それは、性戯四十八手のうちの「宝船」――。
結婚一年目の若い夫婦。誠実そうな三十過ぎの一夫(岡田智宏)と、まだ二十代後半のうぶな千春(愛田奈々)。ある晩、千春が、寝言でつぶやいた「たからぶね」という言葉。それ以来、一夫の頭の中にはその言葉が頭からこびりついたように離れなくなる。
そんなある日、一夫は叔父の健次(なかみつせいじ)に偶然エロ写真集を見せられ、「たからぶね」が四十八手の体位であることを知る。千春は清純でエロに免疫がないと一夫は思い込んでいたが、実は千春は一夫との結婚前から健次と交際しており、結婚後も夫の目を盗んで健次とのセックスライフを楽しんでいたのだ。
やがてその事実を健次の妻・敏子(佐々木麻由子)と一夫が知ることになり、ふたりは結託しそれぞれのパートナーへ強烈な仕返しを計画する。
そして、ついに一夫と敏子と復讐の日がやって来た……。
takarabune4
井川「いつからなのかは知らないんですけれど、ピンク映画では女優を3人出して、絡みを6回撮らなきゃいけない……となると、3人目の女優さんが一番困るんですよね。取って付けたような出番にするのが嫌で、ずいぶん悩むんです」
ほたる「今回のは本当に印象的だったと思います。映画に上手いこと絡んでる役だったな、と。私たちの役名も、渡辺監督の作品から頂いてて……」
井川「そうなんですよ。ほたるさんと野村さんの役は“雀”と“久生”と言うんですが、これは渡辺さんが1970年に撮った『(秘)湯の町 夜のひとで』(75分)の主人公エロ事師夫婦の名前なんです。僕なんかが係わり始めた20年も経ってないうちにピンク映画もずいぶん変わってる訳ですけれど……渡辺さんの1965年にデビューした時には、「乳首見せちゃダメ」「お尻の割れ目見せちゃダメ」から始まってる訳ですよ」

ピンク映画に限らず、表現の変遷に思いを馳せる時、こうして一般劇場でピンク映画の重要作を観ることが出来る今日の状況は実に感慨深い。ピンク映画五十周年記念作品『色道四十八手 たからぶね』の公開は、『おやじ男優Z』と同じく3月13日(金)まで、名古屋シネマテークで連日20:35~のレイトショー興行となっている。

また、3月21日(土)からはシアターカフェ(名古屋市 中区 大須)で“渡辺護自伝的ドキュメンタリー”が上映される。題して、『ピンク映画五十周年記念作品『色道四十八手 たからぶね』(企画・原案:渡辺護)公開記念 渡辺護自伝的ドキュメンタリー上映』。
渡辺監督自らが半生を述懐する表題作『渡辺護自伝的ドキュメンタリー』第一部(122分)第二部(138分)が一挙公開され、井川監督とほたるさんのトークでも触れられた渡辺護監督作『(秘)湯の町 夜のひとで』、そして『紅壺』(1965年/75分)、果ては各30分の自作解説が上映されると言う、誠に貴重な企画となっている。
21日(土)22日(日)の2日間は、井川耕一郎監督、北岡稔美(製作・編集)氏による解説が予定されているので、“レクチャー教授”の講義が聴き足りない紳士・淑女はどうぞ御観逃しなく。

弥生・三月……名古屋には、艶匂いたつ春が来た。

取材 高橋アツシ

『色道四十八手 たからぶね』公式サイト
名古屋シネマテーク公式サイト
シアターカフェ『渡辺護自伝的ドキュメンタリー上映』

記事が気に入ったらいいね !
最新情報をお届け!

最新情報をTwitter で