『カメ止め』ムーブメント再来か!『侍タイムスリッパー』安田淳一監督インタビュー
自主映画でありながら、時代劇。武士が落雷によって現代の時代劇撮影所にタイムスリップし、「斬られ役」として生きていく覚悟をするタイプスリップ時代劇コメディ。すでにSNSで大きな話題となっているが、米農家でもあり、本作を手掛けた安田淳一監督にインタビュー。
――公開初日から絶賛クチコミの嵐、上映劇場が池袋シネマ・ロサなので『カメラを止めるな!』のムーブメント再来を感じました。前評判はいかがでしたか。
安田監督 公開前に映画祭や試写会などで合計3回上映したんですけど、すごく反応が良くて。終わった後にSNSで絶賛の声が多くて賑わったんです。僕も会場で一緒に観たんですけど、お客さんがゲラゲラと声を出して笑ってくれて、エンドロールがはじまる頃には拍手が起きていました。
実は『カメラを止めるな!』を目指して作ったんですけど、あの作品は脚本と構成が発明的。これはまねできないな。でも、上映中の笑い声と最後に拍手という状況を再現できれば、オーソドックスな脚本のアプローチでも可能かもしれない。そんな思いで脚本を書きはじめました。試写会で客席の大きな笑い声と終映後の拍手を聞いて、もしかしたらこれはうまくいったんじゃないかと。
――時代劇の本場、東映京都撮影所を使用されたそうですが、実際に撮影してみてどうでしたか。
安田監督 初めて東映京都撮影所で当時のプロデューサーに呼び出された時、僕が入室するとすでに美術、床山、装身具、衣装、俳優部の皆さんが集まっていました。そして美術部の方が「普通は自主映画って聞いたら反対する。お金かかるからやめときなはれって。でもこれは脚本がおもろいから、なんとかしたりたいと集まったんや」と言ってくださいました。真夏なら撮影所は使える、床山さんも自主映画やしなと良心的な見積もり。装身具のレンタル屋さんまで破格の条件で協力してくださり、僕はその場で絶対やります!と宣言したのでした。撮影隊はたったの10名。床山さんと衣装さんが加わりました。まぁ、毎日のようにいろんな部署から怒られていました(笑)時には怒声も混じるなか、それでもずっと「こいつらの思うように撮らせてやろう」という愛情を感じていました。昔気質の映画屋の人情がそこにはありました。
――「時代劇=若い方には受け入れがたい」という点に不安は?
安田監督 かなりあります。ただ、立ち回りに関しては、昨今の剣劇アクションみたいには撮りたくないなと思っていました。刀を軽そうに振り回したり、手持ちでカメラ、広角レンズで近くから撮って迫力を出すのではなく、三脚にカメラを据え、昔ながらの殺陣の撮り方で、刀の重量感を表現することにこだわりました。年配層から「こんなものは時代劇じゃない」と言われないよう意識しましたし、若い方たちには逆に新鮮に映ったらいいなと思ってましたね。
――初日の舞台挨拶で「作品の構成は『蒲田行進曲』、ギミックは『マトリックス』、目指したところは『カメラを止めるな!』」とおっしゃっていましたが。
安田監督 まず、物語の骨格として意識したのは『蒲田行進曲』です。その作品に負けないぐらいのクライマックスを作らねばと思いました。ギミック(仕掛け)は『マトリックス』から。ネタバレになってしまうので詳しくは言えないのですが、事象にリアリティを持たせる方法論です。上映中に起こる笑い声やエンドロールの拍手といった客席の反応、その後の拡大上映の目標としたのは、尊敬する上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』という意味です。だから封切りも『カメ止め』の聖地である池袋シネマ・ロサからはじめようと思いました。
――撮影期間はどのくらいでしたか。
安田監督 2022年に撮影しました。7月からはじめて、ひと月に5日~7日間くらい撮影という感じで半年ほどかかりました。本当は短期で集中的に撮った方がコストを抑えられますが、作品自体が通年の設定なので撮影所がすいている真夏だけでは撮れないのと、マンパワー不足で準備が追いつかないため、期間をあけて次の撮影期間の準備を行うという自主映画の中でもどちらかというとダメダメな進めようでした(笑)
――本作に込めた思いや、メッセージについて。
安田監督 苦境に陥った人があきらめず、腐らず、状況を受け入れ、正しい努力をすれば道は開ける。そんな事を伝えたかったのかも。頑張っている人を応援したい。過去に撮った作品もそんな感じなんですよ。それに若い人たちが時代劇の面白さに気づいて、過去の時代劇の名作に触れるきっかけになったらいいなという思いもあります。
メインのおふたり(山口馬木也、冨家ノリマサ)がまたかっこいいんです。本物の侍が映画に出てくれているという感じで。日本映画の主演は若い方が多いですが、海外は『アベンジャーズ』なんておっさんばっかりですし、韓国映画も面白い作品はおっさんが主役っていうのが結構多いんですよ。僕の持論として、男前とかビジュアルのかっこよさに頼りすぎると、結果的に行動としてのかっこよさが薄っぺらくなってしまう。スターで映画を作るよりも、映画でスターを作るイメージで撮っています。僕自身は有名になりたいんじゃなくて制作費を回収させていただければそれでもう(笑)スポットライトは俳優さんたちに当たってほしいという思いは一貫しています。
――もしタイムスリップできるなら?
安田監督 江戸時代にやっぱり行ってみたいですね。坂本龍馬とかどんな感じなんだろうって。戻ってこれるんだったら、すごくベタですけど未来に行って株式投資や円の動きを知って……。
――安田監督、欲が出てますよ(笑)
それで株で儲けてそのお金で映画を撮りたい。ついでにどんな映画がヒットしてるかを見て、そのネタを全部パクって先に作ってしまいたいですね(笑)
――好きな映画監督を教えてください。
安田監督 3人いるのですが、黒澤明監督、山田洋次監督、宮崎駿監督です。黒澤監督のモノクロ時代は撮り方もかっこいいんですよね。さらにはお客さんの心理をコントロールし、ミスリードしてビックリさせて顛末まで持っていくというシナリオ。山田監督は『男はつらいよ』シリーズの、人を思いやる気持ちや寄り添って生きていく感じ。寅さんの帰りを温かく迎えるのに、毎回ケンカして飛び出すパターンの喜劇が好きで。宮崎監督は興行的にも結果を出しつつ、自分の世界観を描くことを貫いています。
――今後の活動や夢について。
安田監督 おもしろい脚本が何本かあるんですけど、もう二度と自分のお金で映画を作りたくないです(笑)スポンサーがついて商業映画も撮ってみたいのですが、僕の方法論としてスターを使って映画を作るのは向かないかも。気もつかうのもしんどい(笑)米農家としても頑張っているので美味しいお米をちゃんと作れるようになりたいです。映画制作も難易度が高いですけど、今は美味しい米作りの方が難易度が高いと感じています(笑)
――これから作品をご覧になる方に、メッセージをお願いします。
安田監督 6年前に『カメラを止めるな!』が大ヒットした時、いろんな方が「これは後にも先にも一回きりのこと」と言ってました。僕は「一回できたことは再現性があるのではないか?」と、いろいろ研究して『侍タイムスリッパー』を進めてきました。今、SNSで「ポストカメ止めの本命」と書いていただくこともあり、うれしい反面、果たしてあの奇跡が再び起こるのか?とも思います。果たしてどうなのか?皆さんに是非劇場でご覧いただいて確かめてほしいと思います。
取材・撮影 南野こずえ
『侍タイムスリッパー』
©2024未来映画社
池袋シネマ・ロサにて公開中。8/30より川崎チネチッタでも公開。