今夜BARで…すれ違いが生む極上のコメディ!『結婚の報告』レビュー


ある日の夜。とあるBARで敦也(高橋里央)は長年の親友、田村(岡本智礼)と待ち合わせをしていた。敦也が結婚を決めその報告を田村にするつもりなのだが、敦也は非常にナーバスだった。何故ならば敦也の結婚相手は…田村の実の母親だから!

意を決して話し始めた敦也に田村は「俺が結婚相手を当てるから言うな」と言い出し、全く話をさせてくれない。結婚相手が自分の母親とは夢にも思わない田村はお下劣なトークを繰り広げ、敦也はどんどん追い込まれてゆく。そんな二人をバーの常連客、槙島(市原朋彦)が面白そうに眺めている。実は槙島もこれから結婚の報告をするのだ。待ち合わせの相手、尚実(今村美乃)がやってきたので槙島は尚実に披露宴のスピーチを頼むのだが…。

本作は関西を拠点に活動する中野劇団が2015年から上演する同名人気戯曲の映画化で、同劇団主宰の中野守が脚本を務めている。まさに舞台原作らしく物語はBARだけで展開していくワン・シチュエーションムービーだ。「“結婚の報告をなかなか言わせてくれない”をワン・シチュエーションで68分…中だるみしないかな」等と思うなかれ、これがめちゃくちゃに面白い!ワン・シチュエーションは場面転換による変化がないため同じ場面、同じキャストで退屈してしまうこともあるのだが本作は全く飽きさせないのだ。

まずメインテーマの「結婚の報告を言い出せない」まま繰り広げられる会話の秀逸さ。敦也の結婚相手が同世代の女性だと思い込んでいる田村は次々と下世話な話題をぶっこんできて敦也を困らせる。「彼女には子供がおんのか?」…オマエだよ!とも言えぬまま、ひょんなことから奥手な敦也の性癖まで明らかになってしまい敦也に同情しつつも笑いが止まらない。事情を知っている我々(観客)だからこそ突かれる笑いのツボがありすぎる。

さらに「敦也が田村の母親と結婚する」だけにはとどまらない予想外の人間関係が散りばめられており「えっ、そうだったの!」と驚くのが楽しい。そこからまた新しい展開を見せ、どんどん物語が広がっていくので登場人物の相関図をあまり頭に入れず鑑賞した方が新鮮な驚きを得られるかもしれない。

また本作はメインキャスト4人の会話を中心に進むため、俳優陣の力量も否応なしにクローズアップされてしまうが、拙い表現だが全員がとにかく上手い。それぞれのキャラクターを際立たせつつもやり過ぎず、絶妙なちょうど良さで登場人物がスッと心に入り込んでくる。まるで自分もBARの客で、「あの人たちどうなってんの…?」と眺めているような没入感。4人がいる場所だけではなく、BARのカウンター席などを生かしてワン・シチュエーションに奥行きを出しているのも巧い。店員や他の客がこちらの話を聞いていたり聞いていなかったり、プライベートでもありパブリックでもある飲み屋の空間が心地が良い。ありとあらゆるものがちょうど良いのだが、それは計算され尽くした緻密な脚本の上に成り立っているのだ。

メインキャストの4人には、主演の敦也に舞台のほか映画やドラマでも活躍する高橋里央。真面目で超奥手だが芯が強く思いやりのある敦也を好感度満載で演じた。敦也の親友、田村には『ピストルライターの撃ち方』(22)の岡本智礼。お調子者で底抜けに明るくて、ゲスい田村が本作のキーパーソンだ。彼が鈍感でおバカで愛らしいヤツだからこそこのストーリーは成り立つのだ。田村みたいな友達が欲しい。
偶然BARに居合わせた常連客、槙島にはドラマ『新空港占拠』(24)の市原朋彦。ニヤニヤ笑いの風変わりなサラリーマンは傍観者だったはずが思わぬ展開を迎えて行く。槙島の待ち合わせ相手、尚実役には映画『Gメン』(23)の今村美乃。常識人でしっかりした尚実だが、知らぬがゆえに重大な秘密を明かしてしまい、敦也に、後には田村に大ダメージを食らわすのだ。そんな素晴らしいキャストと脚本が奏でるアンサンブルを『レンタル×ファミリー』(23)の阪本武仁監督が完璧なワン・シチュエーションコメディとして完成させた。

色々あったけど、敦也の結婚の報告は、4人は一体どうなるの?最後には友達のような気持ちで事の顛末を見守るに違いない。笑って笑って、最後に訪れるカタルシスには満ち足りた笑いがまたこぼれるだろう。どうかエンドロールまで見逃さず、堪能してほしい。

文 小林サク

『結婚の報告』
キャスト:高橋里央 岡本智礼 市原朋彦 今村美乃 山田かな 古賀勇希 石井建太郎 井星景 七海遼平 久保健太 たけいまい 神吉春果
原作・脚本:中野守(中野劇団)監督:阪本武仁
配給:Team結婚の報告
© 映画『結婚の報告』製作委員会
5月31日 (土) より池袋シネマ・ロサにて公開

記事が気に入ったらいいね !
最新情報をお届け!

最新情報をTwitter で