42分の福音『山陽西小学校ロック教室』鑑賞記


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42分の福音 ――『山陽西小学校ロック教室』鑑賞記――

2015年2月14日、バレンタイン・デイのシアターカフェ(名古屋市 中区 大須)には、多くの観客が集っていた。
この日より『モバイルハウスのつくりかた』(2011年/98分)でドキュメンタリー好きのみならず数多の映画ファンの心を掴んだ本田孝義監督最新作『山陽西小学校ロック教室』(2013年/42分)の上映が始まり、初日に限り本田監督の舞台挨拶が執り行われたのだ。

『山陽西小学校ロック教室』
解説:2013年秋、岡山県では大規模なアートイベント「廻遊―海から山から―」が開催された。その中でアーティスト・イン・レジデンス(滞在製作)作家に選ばれた映画監督の本田孝義は自分の母校・山陽西小学校(岡山県赤磐市)において、ロック教室を開催し、そのドキュメンタリーを作ることにする。1970年代初めから岡山のベッドタウンとして開発された山陽団地。周辺には桃畑が広がり、古代吉備文化の埋蔵品がある。その中心にある山陽西小学校は、かつてはマンモス校であったが、撮影当時の児童数は約280名。創立40周年を迎えていた。ロック教室の講師は、同校の卒業生・森内ベース(パンパンの塔)。はたして子どもたちは山陽西小学校学習発表会でのお披露目ライブで無事演奏することが出来るのだろうか……。
出演:森内ベース、パンパンの塔、山陽西小学校の児童たち

本田監督「最初、僕と森内くんは、10人くらい居ればバンドの形になると思ってたんです。ところが、二学期の初めに高学年4・5・6年生全員に申込書を配ったところ来た子が30人で、楽器が足りなくなったんです。そこで、10人ずつ3つの班に分けてやりました。2ヶ月間でやると最初から決まってたんですが、3つの班に分けるとなると、練習時間も三分の一になる。学校の決まりで、練習に使える時間は業間(20分の長い休み時間)とお昼休みの一日計40分、しかも月火木金の週4日間だったんです。3班ローテーションで回していったんですが、計算してみたところ凡そ5時間強だったんですね。吃驚したんですが、子供たちの覚える速度、進歩の速度って改めて凄いなと思いました」

アンプのスイッチの入れ方、ギターの構え方から習い始めた子供たちは、二ヶ月で、延べ5時間でどんな成長演奏を見せる……聴かせるのか――。
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本田監督「希望楽器を最初に書いてもらったら、どう言う訳か綺麗に分かれたんです。協力してくださってた担任の先生が名簿を見て、人間関係で班分けしてくれたんですよ。僕らは普段の学校生活は全然分からないんで、お任せしたんです。結果、班の中での喧嘩はほとんど無かったですね。後で校長先生に、「この組み合わせで学校で何かやることは、まず無い」って言われたんですよ。校長先生によると、30人の中の三分の一はめちゃくちゃ頭の良い子、三分の一は教室で大暴れするような子、三分の一は支援学級の子だったそうです」

この話を聞いた観客は、大層驚いた。作品中で多くを語ろうとしない本田監督の主義もあるが、銀幕に映るひたすら楽器に打ち込む子供たちの姿からは想像も出来ない話だ。『山陽西小学校ロック教室』は42分ながら、30人すべての子供たちを活写している。

本田監督「せっかく作るので今後も授業で使えるようにしてほしいと、岡山県の方から要望がありました。僕も色んな小学校で観てもらいたいと思ったんで、今の授業時間45分以内で収まるよう42分にしたんです」

子どもたちが真摯に演奏に取り組むプロセスを観ていると、つい自分の人生を追想してしまう。それは、何かを覚え初めの頃の、満ち足りた幸せな記憶だ。歩き始めたばかり赤子は、足を運ぶだけで幸せだったことだろう。
観る者の胸を幸福感で満たし、明日への希望が漲る不思議な高揚感を味わえる――そんな濃厚な42分の福音を、どうか御観逃しなく。『山陽西小学校ロック教室』は、シアターカフェで2月20日(金)まで上映中だ。

取材:高橋アツシ

シアターカフェ『山陽西小学校ロック教室』

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