白菊が時空を超えて届ける、慰霊と平和への願い 『君と花火と約束と』レビュー


私たちが見上げる花火には、誰かの祈りや記憶が込められている。アニメ映画『君と花火と約束と』は、新潟県長岡市で毎年開かれる長岡まつり大花火大会を舞台にした物語だ。主人公の夏目誠(佐藤勝利)は、特にやりたいこともない15歳の高校生。絵を描くことが好きだったが、とある理由で絵から遠ざかっている。高校入学直後、誠は同級生の葉山煌(原菜乃華)から「ずっと会いたかった」と声をかけられ、この物語は動き出す。

煌は長岡の曽祖母から「いつか夏目誠という少年に出会い、煌のために絵を描いてくれる」と聞かされて育ったという。しかし、絵を描けなくなった誠には、煌の探していた「夏目誠」が自分であると信じられない。それでも誠は煌に惹かれていき、かつて諦めた絵と再び向き合い始める。そしてついに、「いつか煌のために絵を描く」と約束するのだった。

煌にはお守りにしている花火の絵があった。ある日、その絵の裏に「2026年8月1日」の日付と誠のサインがあることに気がつく。しかし、誠にはその絵を描いた覚えがない。絵の謎を追って長岡に向かう誠と煌。そこで過去から迷い込んだような少女と出会うことで、青春の恋と花火をめぐる謎が重なり、81年の歳月を隔てた2つの時代が交差していく……。恋愛、花火、約束。一見すると王道の青春物語を思わせる要素が並ぶ。しかし本作はそれらを入口にした、戦争の記憶を未来へつなぐ、静かな祈りの物語になっている。

長岡花火は華やかな夏の行事であると同時に、慰霊と復興、平和への祈りを受け継いできた。1945年8月1日、長岡空襲によって市街地の大半が焼け、1,489人が犠牲になった。現在も空襲が始まった午後10時30分に、白一色の尺玉3発が打ち上げられる。それが「白菊」だ。本作では、この白菊が物語を貫く大切な存在として描かれる。夜空に白く美しい光が広がり、少し遅れて大きな音が届く。アニメーションながらリアルを追求した花火大会の映像や音は、実際に会場にいるかのような迫力がある。そして、白菊が儚く散っていく様子は、かつて同じ空の下で失われた多くの命と重なる。

白菊を見たあと、誠は「もし戦争に使う爆弾が全部花火だったらいいのに」とこぼす。爆弾と花火はともに火薬を使う。しかし、一方は人の命を奪い、もう一方は人々が同じ空を見上げる時間をつくりだす。誠の言葉は、81年前の長岡だけに向けられたものではない。世界では今も戦争が続き、爆弾によって罪のない人々の日常や命が奪われている。彼の言葉は、戦争を過去の出来事として遠ざけず、今を生きる私たちに平和の意味を問うているように聞こえる。

「煌との約束を果たしたい」という誠の純粋な気持ちは、やがて過去の人々から託された想いと重なり、次の時代へと広がっていく。私にはそれが、失われた命を悼み、平和への祈りを未来へ届ける白菊のように見えた。作中で打ち上がる花火を見て、あなたは何を感じるだろうか。スクリーンに広がる白い光を見つめるとき、観客もまた、過去から託されたものの受け取り手になるのだ。

文 山崎裕太

『君と花火と約束と』
©映画「君と花火と約束と」製作委員会
配給:松竹/シンエイ動画
2026年7月17日(金)公開

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