密室×死体×やばい人々=退屈させないサスペンスの誕生!『軋み -KISHIMI-』レビュー


人気漫画家の由美子(山崎真実)には無職の夫、潤(柴田明良)がいる。由美子の収入に依存して3年間気ままに過ごしてきた潤だが、ある日自宅リビングに由美子と彼女の編集者・高木(八神蓮)がおり、そばに女性の死体が横たわっている現場に出くわして驚愕する。
死体は由美子が衝動的に殺してしまった潤の不倫相手であり由美子のアシスタントでもある、ひとみ(平井沙弥)だった。何故か潤に自首を迫る由美子、慌てふためく潤、事件を隠蔽したい高木、そこへ何も知らずに訪ねてくる由美子のアシスタント、更にひとみを探す怪しい男まで登場しそれぞれの目論見と思惑が激しく交差する。

文字通り出口の無い、密室ワンシチュエーション・サスペンス。夫の不倫相手の死体が転がっている冒頭からどうなっても最悪な展開しか見えないのだが、この違和感は一体何なんだろう。当の殺害犯の由美子は「私の代わりに自首をして(元はあなたのせいなんだから!)」と夫の潤に詰め寄り、編集者の高木は由美子の漫画家生命を守るため事件を隠蔽しようとし、不倫相手を殺された潤は慌てるばかりでうっかり由美子の誘導で自首しそうになる。おいおい…何だか皆さん変だよ、人が一人死んでるんですよ。

モヤモヤを抱えながら観ていると更にパンチの効いたキャラクター達が次々と登場し不穏さが高まってゆく。高木の知り合いだという謎の仕事人(重松隆志)の悪魔的な存在感、やたらに気が回る由美子のアシスタント・飯倉(駒木根隆介)の不気味さ、ひとみの行方を探る自称・元カレ(吉田知生)の異常な執着心…。深夜に来訪する由美子の元アシスタント・久野(山田奈保)とひとみの由美子への歪んだ感情など、ホラーではないはずなのに一人一人が理解出来なくて怖い。

そうだ、違和感の正体が分かった!登場人物が皆どこかズレており、誰にも感情移入が出来なさすぎてそれが違和感を生み出していたのだ。勿論、登場人物もお互いに理解し合えず文字通り人間関係が激しく“軋み”出す。これは密室×殺人という特異な状況が生み出したパニック状態なのかそれとも人間の自己中心的な本性なのだろうか。主人公の由美子は怒りに任せてひとみを殺害した後も落ち着き払い、潤に身代わりの自首を勧めるなど強気な態度を取っていたが、次第に彼女自身にも“軋み”が生じ始める。心の奥底に閉じ込めたはずの罪悪感や恐怖が幻影となり、彼女に付き纏い始める。平気な顔をして押さえつけていた感情が暴れ出したのだろうか。

この物語の解決策、ベストなエンディングが何なのかは分からない。けれど、この違和感や分かりあえなさがあるからこそ面白いと思ったのは初めてかもしれない。映画が「感情移入が出来ませんでした」とネガティブな意味で評されることがあるが感情移入が出来ないのは他人であれば当然で、それが人間関係の“軋み”に繋がることもあるのだろう。ただ、本作の感情移入出来なさは私にとってはネガティブではなく新しい発見だった。違和感や自分にはない他人の感情を知ることは実は物凄く大切なんじゃないだろうか。

主人公の由美子を『愛のごとく』(26)の山崎真実、夫の潤を『アギト-超能力戦争-』(26)の柴田明良、編集者の高木を映画、ミュージカルで活躍する八神蓮が演じている。曲者のキャラクターたちを駒木根隆介、重松隆志、吉田知生が演じ脇を固めている。監督はAV撮影現場のメイクルームの1日をワンシチュエーションで描いた『メイクルーム』(15)でゆうばり国際ファンタスティック映画祭でグランプリを受賞した森川圭、原作・脚本は、「劇団ブラジル」を主宰し『RAILWAYS』シリーズ、『事故物件 恐い間取り』(20)など数々の脚本を手がけるブラジリィー・アン・山田が務めた。

果たしてこの奇妙な物語の結末はいかに?誰か感情移入できる人物がいるかも考えながら鑑賞してみるとより楽しめるかもしれない。

文:小林サク

『軋み-KISHIMI-』
監督・撮影・編集:森川圭
キャスト:山崎真実 柴田明良 八神蓮 駒木根隆介 山田奈保 平井沙弥 吉田知生 大迫可菜実 水越嗣美 酒井健太郎 重松隆志
原作・脚本:ブラジリィー・アン・山田
配給宣伝:ハンドメイドピクチャーズ漫画
©ハンドメイドビジョン
5月23日(土)より 新宿K’s cinema 5月30日(土)より シアターセブンにて一週間限定公開 ! 全国順次公開予定

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