戦争の最善の判断とは?『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』レビュー
世界的にテロとの戦いが激化する昨今、戦争はかつてのイメージとは大きく変貌している。情報戦に競り勝ち、味方のダメージを最小限にすることを可能にしたのが無人偵察機、ドローンの存在だ。
本作『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』は、最新鋭のドローン偵察機が可能にした現代の戦争の姿をスリリングに描いている。
(ストーリー)
イギリス軍の司令官キャサリン・パウエル大佐(ヘレン・ミレン)は、アメリカ軍の最新鋭ドローン偵察機を使い、英米合同のテロリスト捕獲作戦を指揮している。
かねてより追跡中の武装勢力アル・ジャバブのテロリストたちがケニア・ナイロビの民家に潜んでいることをドローンが突き止めたが、映像に映し出されたのは大規模なテロの準備を行うテロリストの姿だった。
テロ阻止のため急遽殺害作戦に変更となり、キャサリンはアメリカ・ネバダ州で指示を待つ新人ドローン・パイロット、スティーブ・ワッツ中尉(アーロン・ポール)にヘルファイアミサイルの発射を指示する。
だがその時、ミサイルの殺傷圏内にパン売りの幼い少女がいることが分かる。民間人の被害を避けるため、イギリス軍上層部や政治家、ホワイトハウスまで巻き込んだ議論に発展するーー。
(レビュー)
本作には「会議室」と「現場」という相対する2世界が存在する。ロンドンの’コブラ・オフィス'(国家緊急事態対策委員会)では、キャサリンの上司、ベンソン中将(アラン・リックマン)が家族へのプレゼントを選びながら優雅に出勤し、閣外大臣や政務次官らと論議を交わしつつ事務的にテロリスト捕獲作戦を展開していく。
ドローン偵察機が映し出す戦場の映像が彼らやアメリカの司令官がいる会議室のスクリーンに映し出されるのだ。遠く離れた国の会議室にいる人間たちが口々に戦争の現場に干渉するのだ。
だが、現地の幼い少女がミサイル攻撃の巻き添えになる可能性が分かるや、誰もが決断をためらい、攻撃の決定権はイギリスの外務相、アメリカの国務長官まで次々とたらい回しにされ、’口だけ干渉’の高位の人間たちは責任逃れに慌てふためく。
他方の現場はいい迷惑だ。ミサイル発射を担う米軍ドローン操縦士、スティーブは、少女の命を危険にさらすことに心を痛めながらも必死に職務を遂行しようとする。現地のナイロビでは、工作員たちが正体を隠しながら神経をすり減らし、テロリストの動向を最前線で探り続けるーー遠い国の会議室からの指示で。
少女の存在で混乱し、解離しかかる「会議室」と「現場」を強烈な存在感で繋ぐのがヘレン・ミレン演じる司令官キャサリン・パウエル大佐だ。彼女の目的は大規模なテロを防ぐためにテロリストを殺害すること「のみ」。
そのための少女の犠牲は彼女には小さいことだ。その意思はあまりにも明確で、同情や躊躇の入り込む余地は無い。動揺する上層部を尻目に、キャサリンは巧みに皆を誘導しミサイル発射の手はずを整える。戦争のただなかで最も難しい判断を迫られるとき、彼女のような存在は必要なのだろうが、迷いの無い冷徹さに、戦慄する。
大勢を救うために1人を犠牲にするか、またはその反対かーー、この問いに正解は存在するのか?そもそも、「絶対に正当化できない」戦争の中に正解を見出だそうとする矛盾とジレンマが冷静に描かれている。
『ツォツィ』でアカデミー賞外国語映画賞の受賞経験があるギャヴィン・フッドが監督を務めた。恐るべき冷徹さで作戦を実行する司令官キャサリンを国際的スター、ヘレン・ミレンが演じ、キャサリンの上司ベンソン中将を昨年逝去した名優アラン・リックマンが演じており、本作が彼の遺作となった。
また、テレビドラマ『ブレイキング・バッド』でエミー賞を3度受賞したアーロン・ポールが職務と人道の狭間で苦悩するドローン操縦士を演じている。また製作陣にはアカデミー賞俳優コリン・ファースがプロデューサーとして名を連ねている。
戦争に最善策は存在しないーー、その事実に目を背けながら議論する人々に、改めて戦争の虚しさと無意味さを痛感する、良心とモラルに訴えかける作品だ。
文:小林サク
『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』
©eOne Films (EITS) Limited
2016年12月23日よりTOHOシネマズシャンテにて先行公開
2017年1月14日より全国公開