時代を超えるカッコ良さの源流『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』レビュー
1978年、無為に日々を過ごすカメラマンの青年ユーイチ(峯田和伸)はラジオから流れたセックス・ピストルズの曲に衝撃を受ける。パンク・ロックの何たるかも分からぬまま衝動に任せて上京したユーイチは、ロックミニコミ誌「ロッキンドール」を読んだことからあるライブハウスを訪れる。観客とバンドが一体になり生み出すエネルギーに満ちた空間で、ボーカルのモモ(若葉竜也)が率いるバンド「TOKAGE」のライブパフォーマンスに魅了されたユーイチは無我夢中でシャッターを押し続けていた。モモや彼の仲間のサチ(吉岡里帆)、DEEP(間宮祥太朗)らと交流を深めるユーイチは正式にカメラマンとして撮影を依頼される。やがて彼らの音楽は若者たちを熱狂させそのムーブメントは「東京ロッカーズ」と呼ばれ日本のロック史を塗り替えてゆく。
時は昭和50年代初頭、インターネットはまだ普及しておらずスマートフォンもSNSも無い。そんな時代に東京にパンク・ロックを根付かせようと奮闘した若者達がいた。楽曲も録音スタジオもレコードも自分たちで作り上げ、自分たちの音楽を自ら観客に届けようとしたのだ。わずか1年のムーヴメントだったにも関わらずその後のロック・シーンに大きな影響を与えた東京ロッカーズ。その現場を目撃し克明に記録したのは、峯田和伸が主演を務める「ユーイチ」=地引雄一氏だ。彼はカメラマンとして、またマネージャーとして東京ロッカーズと社会を繫ぐ窓口ともなった。
映画ではユーイチが案内人として東京ロッカーズと当時の音楽シーンに没入していくのだが、昭和50年代は演歌、歌謡曲が全盛のイメージで正直言って当時のパンク・ロックというものが全く思い描けなかった。「昭和のパンク・ロックとは一体…?」疑問に対する答えは想像をはるかに超えた形で返ってきたーーとにかくめちゃくちゃに格好良い。東京ロッカーズでも人気が高い「TOKAGE」は大手レコード会社と契約を交わしメジャーデビューする一方、モモはユーイチ、サチと共にインディ・レーベルを立ち上げ「TOKAGE」はメジャーとインディを股にかけて活躍した。「軋轢」を率いるDEEPはかつてニューヨークに渡り現地のバンドに加入。その経験が海外のそれとは違う東京独自のパンク・ロックを生み出したいという彼の情熱の源となっている。マドンナ的存在のサチはミニコミ誌など広報に力を入れる一方で、自らもガールズ・バンド「ロボトメイア」を結成し精力的に活動を始めている。ニューヨーク帰りのS-TORA(大森南朋)は自らのスタジオを作りイベントを開催、「解剖室」の未知ヲ(仲野太賀)は過激すぎるパフォーマンスの裏で虎視眈々とクレバーな戦略を練っていた。
各々のバンドが強烈な個性を放ち、スタイルも様々だが共通するのは自分たち独自のパンク・ロックを生み出したいという熱い想い。昭和がどう、などと考えた自分を恥じ入るぐらい彼らはどの時代にいようが間違いなく格好良い若者だった。曲をアレンジするアプリも、動画をアップロードするYouTubeもない。だからこそ彼らの格好良さには常に手作りの泥臭さが付き纏う。フライヤーは実家の印刷所で手刷り、テープを工場に持ち込んでレコードを作り実家のレコードショップで売る。パンクのスピリットである‘’D.I.Y.‘’をまさに体現していて、現代のような便利さやスマートさは微塵もないがそれが余計に彼らの熱量を感じさせる。
物語は1978年の始まりから1982年までを丁寧に描いており、原作があるからこそだが、出来事を忠実に再現し日本のパンク・ロックの黎明期と礎を築いた若者たちの軌跡を伝え残したいという制作者の強烈な熱意を感じる。その想いを受け止め、当時はまだ生まれてすらいなかった若葉竜也、吉岡里帆、間宮祥太朗、仲野太賀という若手俳優たちがそれぞれのロッカーを高い再現度で生き生きと演じている。(とは言え、写真に残された当時のロッカー達は俳優に負けず劣らず皆がイカしている)
『アイデン&ティティ』(03)の監督・田口トモロヲと脚本家・宮藤官九郎が20年ぶりにタッグを組み、東京ロッカーズのカメラマン兼マネージャーだったフォトグラファー地引雄一の自伝的エッセイ『ストリート・キングダム』(K&Bパブリッシャーズ)を原作に描いている。作中には当時の写真が随所に散りばめられており、あの時代を生きた若者たちの息遣いが聴こえてくるようだ。
ムーブメントの最中にいたロッカー達は今や70代という事実に驚きしかないが、時代を問わず何かを創造しようとする若者たちが新しいカルチャーを生み、それが次世代へと繋がっていくのだ。彼らが生み出したインディーズレーベルのスタイル、オールスタンディングライブ、複数のバンドが集うロック・フェスなど東京ロッカーズを知らない世代にもカルチャーは脈々と受け継がれている。
本作は決して過去への郷愁だけで出来ている作品ではない。源流を知ることが今を更に慈しむきっかけになるとすれば、これはいわばパンク・ロックの温故知新。時をかけるパンク・ロックのタイムトラベルへと出かけてみてはどうだろうか。
文 小林サク
『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』
2026年3⽉27⽇(⾦) TOHO シネマズ ⽇⽐⾕ほか全国公開
企画製作・配給︓ハピネットファントム・スタジオ
©2026 映画『ストリート・キングダム ⾃分の⾳を鳴らせ。』製作委員会
キャスト: 峯⽥和伸 若葉⻯也 吉岡⾥帆 仲野太賀 間宮祥太朗 中島セナ ⼤森南朋 中村獅童
監督:⽥⼝トモロヲ
原作:地引雄⼀「ストリート・キングダム」
脚本:宮藤官九郎
