普通ってなんだろう『99%、いつも曇り』レビュー



主婦は総合プロデューサーである。家庭内における炊事、洗濯、家計の管理であらゆる事を瞬時に判断し、処理して日々暮らしているのだ。

主婦・楠木一葉(瑚海みどり)は掃除機をかけている最中、電話が鳴ると掃除機止めず電話に出てしまう。また、洗い物をしている最中でも次の行動に移してしまう始末。それを夫である大地(二階堂智)が溜息一つで処理していく。そんな夫婦の日常だが、母の一周忌で叔父に言われた一言。「子どもはもう作らないのか?」。この言葉を受け、今まで明るく振る舞っていた一葉が突然激昂してしまう。そう、彼女は過去に流産していたのだ。45歳でもう生理が来ないし、何よりも自分がアスペルガー傾向であることによる悩みを持っていたからなのだ。また、夫の甥っ子に向ける視線の優しさで、彼も子どもを欲しがっていたのだと感じていた矢先、友人から養子を迎えるよう勧められる。

一葉の人情味あふれる、だけど危なっかしい友人とのやり取りが、コミカルに描かれて観るものを笑いに誘う。本作はそれだけではなく、既婚者にはありふれた光景だけど夫が見えない時期がある。それを自分の発達障碍のせいなのか?と一葉は悩むけれど、彼女の振る舞いに「あ、私もやってしまうよな」と共感する部分があって、誰しもがグレーゾーンでは無いだろうか?と思い始めていく。いつの間にか一葉の気持ちに同調しているのだ。そして、生きずらさから来る不安や自分の気持ちを夫に伝えるシーンでは、一つ言葉を間違えれば全て終わってしまう恐れがあるにも関わらず、自分の思いを曝け出す事にまるで自分の事のように固唾を飲んだ。

幾重にも年月を重ねた夫婦でも、互いの想いを伝え合う事の大事さを改めて再確認させられたのだった。

監督は、今回初の長編映画となる俳優・声優の瑚海みどり。自ら主演・楠木一葉役はもちろん、脚本・編集も手かげている。夫・大地役には『ラストサムライ』で映画デビューを飾り、『バベル』で二度のハリウッド作品に出演したベテラン俳優の二階堂智。

主人公を通して、私はこのままでいいんだ。これが私の普通なんだと思う安堵と共に、私を取り巻く人々を愛おしく抱きしめたくなる作品だ。

文 内野ともこ

『99%、いつも曇り』
©35 Films Parks
『第36回東京国際映画祭』Nippon Cinema Now部門正式出品作品
『第17回田辺弁慶映画祭』コンペティション部門入選作品
12月15日(金)からアップリンク吉祥寺他 順次公開!

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