モノクロ・サイレントの魅惑ストーリー『映画(窒息)』レビュー
本作のタイトルは『映画(窒息)』。窒息の前に映画の2文字が付いているのだ。タイトルに込められた、こだわりの理由はわからない。映画の原点を意識して制作された作品と解釈した。モノクロ・サイレント映画なのだから、的外れではないと思うのだが。
上映時間は108分。1時間半を越えるサイレントは長い気がしないでもない。30分ぐらいで飽きそうな予感がしたものの、始まってすぐに間違いとわかった。飽きるどころか、最初から最後までスクリーンに釘づけになったのだから。
ストーリーはシンプルだ。原始人のような恰好をした女が主人公。豊かな自然に囲まれた廃墟の建物で、自給自足のひとり暮らしをしている。物々交換に訪れる行商人と会う以外、誰とも接触をしない、のんびりした時間が流れる生活を送っていた。そんな穏やかな日々を過ごしている女の前に突然、山賊の男たちが襲撃を仕掛けてきたのである。ハプニングはまだ続く。女が仕掛けた罠に、青年が引っかかった。女は青年を連れて帰り、不思議な共同生活が始まることに。ふたりは少しずつ心を開き、距離を縮めていく。愛が芽生え始めたのだが……。
女の身に降りかかるさまざまな出来事を通じて描かれる憎悪や怒り、そして愛。セリフがなくても複雑な感情の揺らぎが伝わってくる。女を演じた和田光沙は『岬の兄妹』『菊とギロチン』などの出演作で知られる実力派。本作においても難しい役どころを表情と動きだけで演じ切って見せた。寺田農と仁科貴のベテラン勢、他の役者たちにおいても同様だ。
ストーリーも秀逸である。先が読めないユニークな展開と、繊細な心理描写は味わい深い。
遊び心も感じさせるスリリングな格闘シーン、エンディングに向かっていく疾走感も心地よい。エンターテイメント性に富んだ、芳醇なヒューマンドラマといえよう。
文 シン上田
『映画(窒息)』
配給:トラヴィス
2023年11月11日(土) K’s cinemaほか全国順次公開
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