かき乱される、リフレイン『寝ても覚めても』レビュー



衝動的な恋と平穏な恋、究極の選択をするのならどちらを選ぶだろう。
寝る前に考えていたことが翌朝にはひるがえってしまうように、正解のない答えを出すとき、直前まで左右されるもの。同様に、映画を観た時の心境や状況で作品のとらえ方が変わることもある。あの頃には納得いかないことも、数年後には理解できるように。

振り返って目があった瞬間、運命的な恋に落ちた朝子と麦(ばく)。ふわふわと掴みどころのない彼に対して、朝子は愛おしさで満たされた日々を送っていた。ところがある日、靴を買いに出かけたまま麦は戻ってこなかった――。

理由も分からずいきなり突き放されると、消化不良しか残らない。それを時間や人が解決してくれるというのは、ただのきれいごとである。2人の出来事を1人の答えだけで押し付けたり、都合よく逃げるのも単にずるいだけ。彼女はきっと、受け入れがたい現実にかき乱されたはずだ。

それから2年が過ぎた頃、朝子は東京のコーヒーショップで働いていた。取引先で麦とうりふたつの亮平という男に出会い、驚きを隠せない。麦ではないことを探りつつも避けるようになるが、まっすぐな亮平の想いと穏やかさに惹かれていく――。

“似ている”で終わらないのは、やはり重ねる部分もあるはずだが、中身は違うと知ってようやく別人と認識できるのだろう。それでも愛おしい記憶が消えないのは、消化不良だからこそ思い出は美しいままなのかもしれない。なぜ人は人に惹かれてしまうのか。

芥川賞作家・柴崎友香の同名小説を映画化した本作で、2人の男の間で揺れる朝子を演じるのは、マザー牧場でバイトをしていた時にスカウトされ、CMやドラマで注目を浴びている唐田えりか。初のヒロイン役を務めており、柔らかな雰囲気の中にある強さが、物語の本質へと導く。

関西弁に若干の違和感が残るのは惜しいが、1人2役という新境地への挑戦を東出昌大がキッチリやり遂げてくれている。亮平の同僚役に瀬戸康史、朝子の親友役には伊藤沙莉、ほかにも渡辺大知、山下リオなど脇を固めるキャストが、なんとも絶妙なタイミングで刺激を与えてくれる。

「第71回カンヌ国際映画祭」で『万引き家族』が大きな注目を浴びた。しかし、本作もコンペティション部門に正式出品されており、陰に隠れてしまっているのが非常にもったいない。なぜなら、ありふれたラブストーリーでは終わらないからだ。ホッとしたのもつかの間、加速していくスリリングな展開に戸惑い、衝撃を受ける。人をどのように愛してゆくか、あなた自身の答えを求めたくなるだろう。

文 南野こずえ

『寝ても覚めても』
©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS
9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開

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