冨家ノリマサが振り返る1年「馬木也はソウルメイト」インタビュー


「第48回日本アカデミー賞」最優秀作品賞を受賞した『侍タイムスリッパー』にて、大スター・風見恭一郎役で唯一無二の存在感を放ち、『最後の乗客』ではW主演で娘と心を通わせる父親役を務め、現在上演中の『ヴォイツェック』では凛々しい大尉役を熱演。様々な表情を見せてくれる冨家ノリマサに、この1年を改めて振り返っていただいた。

ーードラマや時代劇を中心に過去の出演歴が多彩ですが、その中でも『東京ラブストーリー』に出演されていたのには驚きました。
冨家 そうなんです。千堂あきほさんの婚約者で振られてしまう役でした。当時はまだひょろっとしていましたね(笑)色々と出演させていただきました。

ーー昨年8月17日に『侍タイムスリッパー』がスタートしてからどんな1年でしたか?
冨家 俳優として新たなゾーンに入った1年でした。自分のやりたい方向と現実の仕事がようやく重なり合い、一致してきた感覚があります。ここに至るまでに43年かかったなぁと。だからこそ今はとても楽しく、生きがいを感じています。

ーー『侍タイ』以降、映画『最後の乗客』、舞台『ストレンジラブ』、ドラマ『コンシェルジュの水戸倉さん』『晩酌の流儀』、CM「au三太郎シリーズ」のあげすぎ謙信など、幅広い役に挑戦されてきましたが、この1年をひと言で表現するなら?
冨家 マネージャーが「これをやってみたら」と提案してくれるんです。自分にない役をいただけるのは本当に楽しいです。次は何をやるのか、自分でもワクワクしています。ひと言で表すなら「海中から海面に浮上した1年」ですね。ずっと潜っていたけれど、この1年でようやく海面に浮上できたような感覚です。

ーーご自身にとって特に嬉しかったことは?
冨家 『侍タイ』がさまざまな賞をいただいたことも嬉しかったですが、昔から僕のことを知ってくださっていた方々がいて、こんなにも応援してくださる方がいると改めて知れたことが何より嬉しかったです。それもこれも『侍タイ』のおかげです。

ーー『侍タイ』が池袋シネマ・ロサでの371日にも及ぶ上映も終わりましたが、どんな思いですか?
冨家 ひと区切りという感じですね。映画はずっと残るものだし、『侍タイ』は永遠にどこかで続いていくものだと感じています。根底にある核が自分の中にひとつできたことは、大きな財産です。

ーー私が『侍タイ』の宣伝担当ということもあり、裏側の冨家さんも見てきましたが、舞台挨拶の際、控室にいつも早く入られていますよね。
冨家 若手だった頃、先輩から「集合時間の30分前には現場に来い」と教わりまして。セットを確認し、余裕を持って芝居に集中できるように準備しています。その教えを40年間守り続けていますね。遅刻して動揺するくらいなら、1時間早く着いた方がいいと思っていて、人を待たせるのが苦手で、自分が待つ方がラクなんです。準備は怠らないタイプなんでしょうね。

ーーその姿勢に加え、終わった後にLINEで必ず「ありがとうございました」とお礼を伝えてくださる気遣いも感じていました。
冨家 僕は長く中堅の位置にいました。今こうして多くの人に支えていただいているのは、自分の力ではなく、周りの方のおかげですし。恵まれた環境にいるからこそ、感謝を伝えるのは自然なことなんです。

ーー謙虚さを常に持たれていて素晴らしいです。
冨家 僕にとっては当たり前のことです。でも、年齢を重ねても謙虚さを忘れず、あぐらをかかないことも若さを保つ秘訣かもしれません。今回の『ヴォイツェック』も(森田)剛くんや伊原さんの懸命な姿からも、多くを学ばせてもらっています。

ーーキャリアや年齢にとらわれず、自分から歩み寄っている印象もありました。
冨家 素敵だと思える人に対してだけですよ。素敵な人に年齢は関係ないですし、僕は好奇心旺盛なんでしょうね。やっぱり素敵な人たちと関わって生きていきたいじゃないですか。

ーー役者として心がけていることはありますか?
冨家 エゴを出さないことです。60歳を過ぎてから特に意識するようになりました。若い頃よりも今の方がずっとエゴを抑えられていますし、なるべくエゴをなくすことが僕の目標です。でも時々出ちゃいますけど(笑)

ーー山口馬木也さんへの“好き”オーラがあふれていますが、ご自身にとってどんな存在ですか?
冨家 僕にとって馬木也は、前世からのつながりを感じるほどで。相性が良く、ソウルメイトのような存在です。今回、剛くんにも同じものを感じていて、相性は良いと思います。僕は心を開ける相手には全開で向き合えるんです。2人に共通しているのは、エゴがないと感じるんですよね。

ーー上演中の『ヴォイツェック』では軍服姿ですが、侍姿と比べてみていかがですか?
冨家 侍と軍人は似ているところがあると思います。どちらも「戦いの場に生きる人たち」。たとえば刀が銃に変わっただけで、根本にあるスピリットは似ている。だから軍服を着ると、侍と同じような心持ちになるんです。

ーー軍服姿もそうですが、きちっとした衣装が冨家さんは似合いますよね。
冨家 若い時に、竜雷太さんのスーツ姿が格好良くて大人の魅力だなと感じたんです。大人になった時にスーツの似合う大人になりたいなと思いましたね。

ーー『ヴォイツェック』の稽古場はどんな雰囲気でしたか?
冨家 休憩中はたわいもない話ばかりしていました。「『ヴォイツェック』をコメディにしたらどうなる?」なんて雑談で盛り上がり、緊張をほぐしていました。共演の伊原さんは透明感があり、吸収力のある素晴らしい方ですね。

ーー会見で「台本を最初に読んだとき、ほとんど理解できなかった」とおっしゃっていましたが、役に入った実感はどのように生まれましたか?
冨家 稽古を積み重ねるうちに、徐々に大尉と自分が重なっていく感覚を得られたときですね。最初は冨家ノリマサがセリフを喋っていましたが、だんだんと大尉の言葉として自然に出てくるようになり、役に入っていった実感がありました。

ーー今後、挑戦してみたい役はありますか?
冨家 コメディチックな役ですね。重厚な役が多かったので、少しとぼけた役やコメディ要素のある役を演じてみたいです。優しい旦那さんとかもいいですね。これからも多面的な姿を見せられるような作品に挑戦していきたいです。

取材・撮影 南野こずえ

「パルコ・プロデュース2025」
『ヴォイツェック』
原作=ゲオルク・ビューヒナー
翻案=ジャック・ソーン
翻訳=髙田曜子
上演台本・演出=小川絵梨子
出演=森田剛 伊原六花 伊勢佳世 浜田信也/中上サツキ 須藤瑞己 石井舜 片岡蒼哉/冨家ノリマサ 栗原英雄

◆東京公演◆
2025年11月7日(金)~11月16日(日)(リターン公演)

◆地方公演◆
岡山/岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場 10月3日(金)~5日(日)
広島/広島JMSアステールプラザ 大ホール 10月8日(水)・9日(木)
福岡/J:COM北九州芸術劇場 大ホール 10月18日(土)・19日(日)
兵庫/兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール 10月23日(木)~26日(日)
愛知/穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール 10月31日(金)~11月2日(日)

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