快楽亭ブラックのトンデモ人生ドキュメント『落語家の業(ごう)』


孤高の落語家、快楽亭ブラック。長年、落語立川流に所属していたが、借金トラブルによって、余儀なく独立。芸歴56年、73歳の現在、東京を中心に活動している。

アメリカと日本の混血ならではの風貌で、高座に上がれば古典だけではなく下ネタやタブーにも切り込む。落語界でも稀有な存在といえよう。加えて私生活も破天荒なのだから、ドキュメンタリーの取材対象にうってつけ。

榎園喬介監督がカメラを回したのは平成最後の日、平成31年4月30日。約6年半も撮影が行われ、完成したのが『落語家の業(ごう)』である。

今に至るブラックの歩みを95分に凝縮。差別と向き合った幼少期、2回の結婚・離婚、病との戦いなどのエピソードが満載。立川談之助と故・唐沢俊一との3ショット、松村克弥監督への恨み節(?)は、古くからのブラックファンには懐かしいのでは。

特に時間を割いているのが、平成26年2月の名古屋・大須演芸場閉館騒動と元弟子に訴えられた件。作品中でブラックは「どんな時でも笑いは取りに行きますよ」と語るだけあって、どちらの場面においても、状況を的確に判断して笑いで治めようと奮闘。大きな見せ場である。

榎園監督の編集センスも素晴らしい。九龍ジョーや鈴々舎馬るこらが提供した撮影記録を含めた膨大な映像を的確かつわかりやすく構成した。ブラックとの付き合いが長いカルト芸人、げんきいいぞうのシーンがタマらない。登場のタイミングが絶妙。ほんの数回、短い時間ながら強いインパクトと笑いを残した。

一般的に70歳を過ぎたベテランともなれば、芸が落ちてきても当然。若い時分とまったく同じとはいかないのが普通だが、ブラックに関しては違う。50歳前後から現在のおよそ20年間のブラックの映像を観て改めて確信。落ちていないどころか、今なお進化していると。歯だけは無くなる一方であるが。

コンプライアンス云々のつまらない世の中とは真逆の世界観が心地よい作品である。

文 シン上田

『落語家の業(ごう)』
出演:快楽亭ブラック 立川談之助 鈴々舎馬るこ げんきいいぞう 大本営八俵
配給:合同会社bluebird siblings
2025年12日13日(土)よりユーロスペース〈渋谷〉、2026年1月9日(金)よりアップリンク京都、1月10日(土)より第七藝術劇場〈大阪〉、元町映画館〈神戸〉、シネマスコーレ〈名古屋〉、ほか全国順次公開

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