うつろいゆく心と体のゆくえ『わたし達はおとな』レビュー
大学でデザインを学ぶ優実(木竜麻生)には、直哉(藤原季節)という恋人がいる。演劇サークルに所属する直哉は、いつか自分の劇団をもちたいという夢を抱いていた。
同棲し幸せな日々を過ごす二人だがある日、優実は自分が妊娠していることに気づく。悩みながらも直哉に打ち明け、直哉は戸惑いつつも事実を受け入れようとするが優実は更に打ち明ける、お腹の子の父親が直哉かどうか確信がもてないのだと。冷静に振る舞おうとする二人だが、次第に気持ちがすれ違ってゆく。
『わたし達はおとな』というタイトルは登場人物が自分たちに言い聞かせている言葉みたいだ。20代はもう働くことも結婚も出来る立派な「おとな」だけれど、同時にまだ中高生の続きのような青臭さ、人生への漠然とした希望的観測、そして若さゆえの危うさも同居している。
こんなに移ろいやすく、信用ならなくて、不安定な若者たちがいるのだろうかと思うけれど、よくよく考えれば’誠実でどんな時も変わらぬ愛を誓う恋人’なんて、映画やドラマで刷り込まれたものでしかなく、現実の人間はもっと生々しくてドライだ。
後先を考えないセックス、成りゆきの情事、経ちきれない元カノの存在、友人との浅く無責任な会話…。ふわふわとした若者たちの日常がシャボン玉のように浮かび上がっては弾ける。皆がどこか取り繕い、本音や弱味はひた隠しにしてお互いに愛想笑いを見せる。そんな中突きつけられた妊娠という現実は、優実と直哉の恋人関係の外面を容赦なく剥がしていく。
二人の衝突する場面では、まるで隣のカップルの喧嘩を覗き見しているようで胸がざわつく。保身と苛立ちのぶつかり合い、感情的な言葉の応酬は息苦しいけれど、ようやく剥き出しの感情を見られたことに安堵もする。対峙しなければいけない現実に向き合う、それがきっと「おとな」になっていくことなのだろう。ラストシーンの優実の表情には、大人の女性の強い意思の片鱗がきらめいている。
本作の監督は演出家・劇作家として活躍し『平成物語』(18)、『俺のスカート、どこ行った?」(19)などのテレビドラマの脚本を手掛け、本作が長編作品監督デビューとなる加藤拓也。ヒロインの優実を演じたのは『菊とギロチン』(18)、『鈴木家の嘘』(18)の木竜麻生。恋人の直哉には『佐々木、イン、マイマイン』(20)、『くれなずめ』(21)など話題作への出演が続く藤原季節。
等身大だからこそ許してはくれない痛みと、ほろ苦い甘さがいつまでも残る恋愛映画だ。
文 小林サク
『わたし達はおとな』
(C)2022『わたし達はおとな』製作委員会 メ~テレ60周年
6月10日(金) 新宿武蔵野館ほか全国公開