『父の愛人』公開記念 迫田公介監督インタビュー


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『父の愛人』公開記念 迫田公介監督インタビュー

2015年6月20日(土)~26日(金)シアターカフェ(名古屋市 中区 大須)にて【『父の愛人』ほか迫田公介監督特集上映】が公開される。
3ヵ国・11の映画祭にて招待上映され、ムンバイ・サードアイアジア映画祭(インド)で審査員特別賞を、ビバリー映画祭(アメリカ)でベストアクトレス賞を獲得した話題作『父の愛人』(2012年/38分)はもちろん、迫田公介監督の過去作2本(『この窓、むこうがわ』(2004年/18分)、『の、なかに』(2005年/20分))も併映されるこの機会、是非とも御観逃しなきよう。

公開を目前に控え名古屋に駆けつけた迫田監督を取材する機会に恵まれた名古屋支部は、インタビューを敢行した。

――『父の愛人』を撮った経緯を教えてください(高橋)
「『この窓、むこうがわ』と『の、なかに』が海外の映画祭に行って、ノリノリで「長編映画を撮ろう」と動いてたんですが、色々あって上手く行かなかったんですね。そして、鬱病になったんです。割りと重かったみたいで、3年くらいは何も出来ない感じだったんです……入院とかして。前は“映画監督になりたい”と思っていたのが、鬱が治ってきた時には“いい映画を撮りたい”って素直に思えたんですね。『父の愛人』は、ただ“いい映画を撮りたい”一心で企画したんです。僕、鬱病の時、基本的に頷いて聞いてくれる先生に一回だけ怒られたことがあるんです。「人から見て大した事ない理由で、こんなに苦しんでいることが恥ずかしい」って言ったら、「人から見て大した事ない理由であったとしても、君自身が苦しいと思っている事を何で恥ずかしいと思うんだ」って。『父の愛人』は、良いとか悪いとかじゃなく、ただ苦しみはあるんだって言うことを三人(河野知美、泉水美和子、麻丘めぐみ)がそれぞれ知る、そんな映画です。観てくれる方の胸倉を掴んで訴えかけるようなアプローチじゃなく、お客さんの隣に座って一緒に観るような映画にしたかったんです」
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――麻丘めぐみさんをキャスティングされた理由を聞かせてください(小林)
「何も決めないないまま始めた企画だったんですが、脚本を書いてたら麻丘めぐみさんになったんです。“敦美”は傲慢でもなく卑屈でもなく、ただ歩いていく……そんな姿が、麻丘めぐみさんのイメージと重なったんだと思うんですね、立ち姿……佇まいが。出演をお願いするのに手紙を書いたんです、10枚書きました。僕のプライベートな事情とか、“敦美”の立ち姿とか諸々を書いたんですけど……熱い手紙だったんでしょう、出てくださることになったんです。映画が完成した後の飲み会で初めて聞いてみたんです、「どうしてこんな映画に出てくださったんですか?」って。なんせ、劇場公開も決まってない、映画祭に出すことさえ目指してない作品だったので。そうしたら、「迫田監督、もらった手紙あるじゃん。あれ、手紙じゃなくて、脅迫状!」って(笑)。麻丘さんは、凄く姉貴肌で気概があって、だけど可憐な感じの方でした。本当に、よく出てくれましたよね……僕、麻丘さんが出てくれないならこの映画はやらないと思ってたんですよ、製作はスタートしてるのに(笑)。麻丘さんのマネージャーさんからプロデューサーが連絡を受けた時も僕らはロケハン中だったんですが、僕はちょっと泣きました」

――製作にはどのくらいの期間を掛けられたんですか?(高橋)
「元々のもっと短い『父の愛人』みたいなのを、10年くらい前に西蔵らま(『父の愛人』脚本)が書いてたんです。二人で改訂を初めて、まず1年半。そこからスタッフを集めて、半年くらい準備とオーディションがあって、撮影が1~2週間くらい。で、編集は1年くらいですか。音楽はavengers in sci-fiの木幡(太郎)さんがやってくれました。avengersはメジャーで活躍してるバンドなんですけど、木幡さんは撮影現場にわざわざ来てもらって音楽作ってくれたんです。もう何でも、「出来ることはやろう」と……例えばオーディションも、書類で通ってもらった50人くらいの方全員に『父の愛人』の脚本と僕の過去の作品のDVDを送って、あらかじめ全部見てもらった上でやったんです。そんなことをしながらも、劇場公開とか映画祭とかはどうでもいいって僕は言ってて。ただ、完成して試写を観た時に「凄い良い映画が出来た」思って、そこで初めて劇場公開を目指したんです。劇場公開するためにどうすればいいか……で、映画祭でした。でも、日本のインディーズ系の映画祭って有名人が出てたら逆に弾かれたりすることもあるらしかったんで、海外しかない、と。そうしたら、今度は38分って尺が……短編の映画祭は30分まで、長編の映画祭は50分以上……その隙間がヨーロッパには全然無くて、送るところがなかったんです。それで、アメリカばかりに送ることになったんです。それから、インドのムンバイ……有名な映画祭らしいんですが、やはり短編は30分までだったんです。応募費が只だったんで(笑)、一応送ったら……38分なのに、セレクションしてくれたんです。ビザだの色々と凄く言ってくださって……でも、結局インドには行かなかったんです。行ってたらよかったんですけどね、賞も頂いて(笑)」

――『この窓、むこうがわ』と『の、なかに』についても教えていただけますか?(高橋)
「『この窓、むこうがわ』は、16mm(フィルム)で撮ってます。僕がニューシネマワークショップって言う学校へ行っていた時の実習作品みたいな作品です。引きこもりの女の子と、向いに住んでる女の人の話なんですが……その時、引きこもりじゃないですけど何か精神的に弱ってて、窓から人が通るのをよく見てたんです。そこから考えた話です。『の、なかに』は、翌年撮りました。自分では気付かなかったんですが、五十嵐(匠)監督に言われた事があります。僕は“合わせ鏡”じゃないですが、「こうあるべきだ」って主観性が凄く強いのに、同時に「絶対こんな訳ない」って絶対拒否の客観性がある。普通は片方に振れたりするのに、どっちも極端に持ってるから、不器用な生き方にもなるけど、作家としての武器にもなる、と。『この窓、むこうがわ』も『の、なかに』も、そして『父の愛人』もそれが表れてるんでしょうね。もう10年くらい前の作品なんですが、海外の映画祭なんかにも行って飛びぬけて実績を付けちゃった『この窓、むこうがわ』の呪縛みたいなものはずっとありました。『の、なかに』もその流れで翌年撮った作品なんですが、『この窓、むこうがわ』を好きな人は『の、なかに』が嫌いなんですよ。『の、なかに』が好きな人は、『この窓』が嫌いです」
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迫田公介監督・西蔵らま(『父の愛人』脚本)舞台挨拶が6/20(土)・21(日)15:00/18:30各回に予定されており、更に、まやかしプラスチックのLIVEが6/20(土)15:00/18:30・21(日)15:00に、のっこん(カングルワングル)LIVEが6/21(日)18:30に予定されている。作品世界をより深く鑑賞するまたとない機会なので、『父の愛人』公式サイト及びシアターカフェ公式サイトのスケジュールをチェックしてほしい。

「『父の愛人』って、僕を救ってくれた映画なんです。試写を観た時に、凄く救われた気持ちになったんですね。それはきっと、駄目な自分も良い自分も、嫌なことを思ってる自分も良いことを思ってる自分も、描かれていて……それで、「居てもいいんだ」って思えたからだと思うんです。僕を救ってくれたってことは、観てくれる方のどなたかが救われるのかも知れない。これから名古屋でやらせてもらいますけど、もしかして観ると自分が“在って”よかったって思ってもらえるんじゃないか、と。“絶対に面白い”物は無いと思いますが、僕はこの映画を観る人全員が「観てよかった」って思ってくれることを心から信じてるんです。結果それが違ったとしても、まだ観てない方に向かって言いたいんです――本当に一部の隙も無く、嘘でもはったりでも無く言えるんですが――この映画は、絶対観た方がいい、と」

今こそ、声を大にして言おう。
主観、客観に係わらず、関わった者の魂を救済する映画が確かに在るのだ、と。

取材 高橋アツシ 小林麻子

『父の愛人』Story:
幼い頃から両親の不和の中暮らして来た幸子(河野知美)。その父親が倒れ、運ばれた病院を教えて欲しいと父の愛人が訪ねて来る。拒絶する母(泉水美和子)。
離婚することもなく、ことあるごとに自分にあたる母に幸子は反発して、父の愛人に病院の名前を教える為、後を追う。
追いついた幸子は愛人である敦美(麻丘めぐみ)に病院名を告げるが、長年自分達の家族を苦しめてきたはずの敦美に対して複雑な思いを表情に浮かべる。それを見て敦美は、もう少し話をしてみたいと自宅に誘う。
父との生活の匂いがする部屋。父と敦美の仲良さそうな写真の隣に幼い頃父にあげた手作りのマスコットを見つけた幸子は強い怒りを覚えてぼろぼろとなった自分と母親のことを敦美にぶつける。

『父の愛人』(2012年/38分/HD作品)
出演:河野知美 泉水美和子 内田周作 麻丘めぐみ(特別出演)
監督:迫田公介  脚本:西蔵らま、迫田公介 音楽:木幡太郎(avengers in sci-fi)製作:とび級プログラム
公式サイトhttp://tobikyu.com/fathermistress/
シアターカフェ公式ブログ

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