青春×SF×恋(+時代劇)!『サマーフィルムにのって』レビュー
高校3年生のハダシ(伊藤万理華)は、時代劇映画をこよなく愛しているが所属する映画部で作られるのは、流行りのキラキラ青春ラブストーリーばかり。撮りたい映画が撮れず悶々とするハダシの前に、ある日武士役にぴったりの理想的な男子、凛太郎(金子大地)が現れる。
凛太郎にインスパイアされたハダシは、友人のビート板(河合優実)、ブルーハワイ(祷キララ)に声をかけ、個性的な仲間を集めて凛太郎を主演に時代劇映画の制作に取りかかる。文化祭でのゲリラ上映を目指して撮影を進めるハダシは、次第に凛太郎にほのかな恋心を抱くようになるが、実は凛太郎には未来から来たタイムトラベラーだという秘密があった。
元乃木坂46の伊藤万理華が主役のハダシを演じ、時代劇マニアの女子高生が映画制作に邁進する姿を描きつつ、そこにSF要素を織り混ぜた青春映画の快作だ。
高校生活最後の夏、仲間たちとの映画制作、タイムトラベラーの少年、淡い恋心など、わくわくするモチーフで彩られた本作はどこか懐かしさを覚える雰囲気も相まって、観る人をひととき10代の頃のあの夏へといざなってくれる。
順調に進む撮影の中、凛太郎がタイムトラベルしてきた理由が明らかになると物語は急展開を見せ、ハダシと凛太郎、そして仲間達との関係にも少しずつ変化が起きる。
未来への不安、自分への自信の無さ、友人との確執、普遍的に若者が抱える悩みを内包しつつクライマックスの文化祭当日へと向かっていく。ラストシーンではハダシと凛太郎が殺陣を披露し、二人の全身全霊をかけた魂の対峙が胸を締め付ける。あの夏は二度と戻らない、共に過ごした青春の日々は繰り返せないからこそ眩しいほどに輝いている。
ガサツな時代劇マニアの女子高生、ハダシを熱演した伊藤万理華の存在感は圧巻だったが、他キャストも金子大地、河合優実、祷キララとこれからの活躍が期待される若手俳優が多く出演しており、瑞々しいエネルギーが画面越しから伝わってくる。監督はドラマや CM、MV など幅広く手掛ける松本壮史が務めており、これが長編初監督作となる。監督のもとに才能ある若手俳優たちが集い、ほのかにノスタルジーを感じさせる爽やかな青春映画が誕生した。
文 小林サク
『サマーフィルムにのって』
© 2021「サマーフィルムにのって」製作委員会
8月6日(金)より、新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開