トリアー卿の秋 深し『ニンフォマニアック Vol.2』レビュー
――トリアー卿の秋 深し―― 『ニンフォマニアック Vol.2』レビュー
ラース・フォン・トリアー監督『ニンフォマニアック Vol.2』が、いよいよ公開となる。『Vol.1』のエンドロールが『Vol.2』の予告めいたカットインだったため、一日千秋の想いで待ち焦がれる映画ファンが溢れていることだろう。
過激な性描写が話題となった『ニンフォマニアック』は『Vol.2』も『Vol.1』に勝るとも劣らないセンセーショナルなシーンが目白押しだ。だが、『Vol.1』を観了した映画ファンは承知であろう……この作品が、扇情的なだけの映画ではないと言うことを。
『Vol.1』で5章が語られた物語は、『Vol.2』では“CHAPTER6 東方教会と西方教会(サイレント・ダック)”“CHAPTE7 鏡”“CHAPTER8 銃”と続き、エピローグを迎える。“冒険相手”K(ジェイミー・ベル)との倒錯した趣味に溺れた結果、家族も仕事も失ったジョー(シャルロット・ゲンズブール)は、怪しげな男・L(ウィレム・デフォー)を頼る。裏稼業も軌道に乗ってきた彼女は、後継者を探そうとするのだが――。
『Vol.1』から若き日のジョーを演じる新人ステイシー・マーティンは引き続きの熱演を見せるが、『Vol.2』では新たに恐るべき新人女優が登場する。ジョーの“もうひとりの分身”とも言うべき少女・Pを演じるミア・ゴスである。映画初出演がこの『ニンフォマニアック』と聞いて、驚愕した。
自らを“色情狂”と呼ぶ女性・ジョーが、聞き手の老人・セリグマン(ステラン・スカルスガルド)に語る数奇な半生は、思わぬ展開を見せる。『Vol.1』で魚釣り・数学・音楽など実に衒学的な相槌でジョーの体験談を引き出したセリグマンの話術は更に冴え渡り、『Vol.2』では“読書狂”に至る経歴の一端が語られる。この短い会話は謂わば『Vol.2』に於けるプロローグに当たる場面で、エピローグの効果を倍化させる屈指の名シーンだ。脚本も手掛けるトリアー監督のストーリー・テリングの妙に唸らされる。
また、思いも寄らず回収される伏線の数々に驚かされる。数、銀食器、紅茶、握手、コート――。
「夕陽に多くを求めたこと」を罪だと言った女性は、どんな朝陽を見るのか。
“魂の木”を見つけることは、出来るのか。
そして、エンディング・テーマもお聴き逃しなきよう。あらゆる面で『Vol.1』とは好対照な幕引きに、じっくりと浸れる。
『アンチクライスト』(2009年)、『メランコリア』(2011年)、そして『ニンフォマニアック』――トリアー卿“鬱三部作”最終章は、最後の最後まで観逃せない作品だった。
文 高橋アツシ
『ニンフォマニアック Vol.1/Vol.2』 原題:NYMPHOMANIAC/R18+
キャスト:シャルロット・ゲンズブール、ステラン・スカルスガルド、ステイシー・マーティン、シャイア・ラブーフ、クリスチャン・スレイター、ジェイミー・ベル、ユマ・サーマン 監督/脚本: ラース・フォン・トリアー
配給:ブロードメディア・スタジオ
(C)2013 ZENTROPA ENTERTAINMENTS31 APS, ZENTROPA INTERNATIONAL KÖLN, SLOT MACHINE, ZENTROPA INTERNATIONAL FRANCE, CAVIAR, ZENBELGIE,
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『ニンフォマニアック Vol.1』10月11日(土)~ 『ニンフォマニアック Vol.2』11月1日(土)~
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷ほか全国順次公開
『ニンフォマニアック Vol.1/Vol.2』公式サイト