もう誰も止められない!『私をくいとめて』レビュー



コロナ禍での開催に踏み切った「第33回東京国際映画祭」で、観客の投票で決まる観客賞を受賞したのは『私をくいとめて』だった。本作同様に大九明子監督と原作・綿矢りさのコンビで映画化された『勝手にふるえてろ』が3年前の「第30回東京国際映画祭」にてコンペティション部門の観客賞を獲得していることもあり、言うまでもなくプレッシャーと注目を浴びるなかでも、結果として期待を裏切らなかったのは本当にお見事でしかない。

31歳で独身のみつ子(のん)は、おひとり様生活を上手に満喫している日々で、お出かけや食事を楽しむ術を身に着けている。彼女には大事な存在「A」がおり、いつも助けてくれ、頼りに生きているのだが、人間ではなく脳内にいる相談役のことで“アンサー”を意味し、簡単に言ってしまうと自問自答なのだ。しかし、そのやりとりは非常にリアリティに溢れていることが本作が支持された大きな理由にもなっている。

そんなみつ子にも、気になる人ができた。年下の営業マン・多田くん (林遣都)とは近所で偶然会ったことがきっかけとなり、料理を幾度かおすそ分けすることになる。ちょっと図々しくも嬉しそうに受け取りに来る彼だが、2人はおすそ分けの仲止まりなのだ。ひとりに慣れすぎた故に、不安も怖さも面倒くさいこともきっとあるだろうけど、それでいいのか、みつ子!!!そりゃ、もちろんア・イ・ツも黙っちゃいないよ。

果たして、腹ペコ男子・多田くんの胃袋とハートをつかむことができるのだろうか?!

ヒロインを務めるのんの演技はとにかくキラキラと輝いており、ユーモラスなキャラクターに寄り添うように芽生える共感は、誰もが経験している自問自答を「A」という存在に確立することで、客観的な面白おかしさが遺憾なく表現されている。また、イタリアに嫁いだ親友・皐月役の橋本愛との共演は「あまちゃん」 以来となるので、心通わせるシーンは感慨深いポイントとなるだろう。

周囲を取り巻く人々もこれまた個性的でコミカル要素が色濃く出ており、マスクの下で思わずニヤリとするはずだ。そして、忘れてはならない重要人物の多田くんを演じる林遣都だが、”年下”というキラーワードに加え、今までのイメージとは少し異なる腹ペコキャラがなんともチャーミングに仕上がっている。お姉様がた、ズキューンと撃たれること必至の覚悟を。

2人の恋の行方とともに、気になる「A」の声は一体誰なのか。ぜひスクリーンで確かめていただきたい。観終わったあと、大滝詠一の脳内リピートはくいとめられない!

文 南野こずえ

『私をくいとめて』
©2020「私をくいとめて」製作委員会
12月18日(金)より全国ロードショー!

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