重ねることでしか取りつくろえない、嘘『猿楽町で会いましょう』レビュー



東京という大都会で、現実にもがきながらも夢を描く者は数知れない。そう、この2人も同じように。

若者でにぎわう街・渋谷と、落ち着きのあるおしゃれな代官山。その間にある猿楽町で暮らすのは、駆け出しのカメラマンである小山田修治(金子大地)。野心はあるものの自分の撮りたいものが見出せないでいた。ある時、読者モデルの女の子の撮影を紹介され、女優志望の田中ユカ(石川瑠華)と出会う。ファインダー越しに彼女を見つめる小山田は、瞬く間に惹かれていくのだが――。

本作は次代を担うクリエイターの発掘・育成を目指して、まだこの世に存在しない映画の3分間の予告編だけで競う「第2回未完成映画予告編大賞 MI-CAN」で見事にグランプリを受賞。その後に制作された本編は「第32回東京国際映画祭」のスプラッシュ部門でも上映を果たした。

キャストには、一世を風靡したドラマ「おっさんずラブ」でチャラいけど真っ直ぐな青年を演じ、若手注目株として急上昇中の金子大地が小山田を演じており、言うまでもないが彼の金髪なカメラマン姿はアリ寄りのアリである。

モデルや女優に憧れを抱いて上京したが、なかなかいいチャンスに恵まれないユカ。いかにも純朴そうな雰囲気で、男性はこういう子にコロンと落ちるんだろうなぁという掴みとともに、案の定な小山田が少し微笑ましい。「おっさんずラブ」ファンなら、“蝶子と真逆のタイプじゃん!”なんてツッコミは心の中で。

また、『イソップの思うツボ』では主演を務め、今後の活躍が期待されているヒロイン・ユカを演じた石川瑠華は、果敢にもラブシーンに挑戦。三池崇史監督の『初恋』での大抜擢が話題を呼んだ小西桜子が彼女のレッスン仲間として一気に活躍する明暗は生々しいライバル関係のアクセントとなっており、さらには 栁俊太郎、前野健太といった実力派も名を連ねている。

本作は、夢を追いながらも恋に落ちていく若者を描いたラブストーリーではあるのだが、物語のカギとなるのは「嘘」である。自分自身をも騙すように正当化しても、重ねることでしか取りつくろえないものであり必ずボロが出る。近づきたい理想と欲望の狭間でついた嘘は、その理由から逃げるほど現実から遠のき、誰かにとって残酷な真実でもあることを突きつけている。

猿楽町を歩くと、どこかふたりに似た姿とすれ違う気がするように、都会の片隅でひっそりと起きていそうなリアリティを醸し出している世界観に引き込まれ、何とも言えないもどかしさに振り回されるだろう。

文 南野こずえ

『猿楽町で会いましょう』
Ⓒ2019オフィスクレッシェンド
2021年6月4日よりホワイト シネクイント渋谷ほか全国公開

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