衝撃体験映画『ザ・トライブ』ミロスラヴ・スラボシュピツキー監督スペシャルインタビュー
この映画の言語は手話である。字幕も吹き替えも存在しない。
「愛」と「憎しみ」ゆえに、あなたは一切の言葉を必要としない。
4月18日(土)より、ユーロスペース、新宿シネマカリテにて公開となる衝撃体験映画『ザ・トライブ』。登場人物全員が聴覚障害者であり、手話のみで構成されている。本作が長編デビューとなる、ウクライナの新鋭・ミロスラヴ・スラボシュピツキー監督にメールインタビューを行いました。
Q:監督ご自身が本作のように、想像力をフル回転された体験や、影響を受けているサイレント作品があれば教えてください。
スラボシュピツキー監督:「映画『ザ・トライブ』の魔術的魅力は、多くの点で、私たちが手話を解しないということによっていると思います。私が学んだ学校は、ちなみにこの学校は『ザ・トライブ』の中でろう者の寄宿学校となっているのですが、この学校がろう者の寄宿学校の向かいにあったため、子供だった私は、耳の聞こえない人たちが仲間同士で意思疎通する様子を見ていました。私が手話を理解できないというまさにそのことのために、この人たちはコミュニケーションの何かより高い段階にいて、言葉によらずに感情や情動を直接やり取りすることができるのだという印象が私の中に生まれたのです。
映画において会話は重要でないという考えは、かなり広がっています。私が驚くべき体験をした映画は、例を挙げると、『ラザレスク氏の最期』やメル・ギブソンの『パッション』ですね。私がテレビで見た『ラザレスク氏の最期』には多くの会話があるのですが、エストニア語の字幕がついたルーマニア語のものでした。私は、どちらの言語もまったく分かりませんが、内容は完全に理解できましたし、深い感動を覚えました。もう誰も話す者のない死語を使って撮影された『パッション』についても同じことが言えます。サイレント映画はどうかというと、もちろんこの中には多少の補助的な字幕があったわけですが、実際のところ、私たちが内容を理解する上でこれはまったく必要のないものです」
Q:今までにない衝撃作ですが、本作で一番勝負に出られたことはなんでしょうか??
スラボシュピツキー監督:「私の理解が正しいとすると、ご質問は劇中の暴力シーンについてでしょう。申し上げたいのですが、ゴールデンタイムに子供たちがテレビで見ているアニメのどれかと比べても、『ザ・トライブ』の暴力の割合はずいぶん少ないほうです。ただ、『ザ・トライブ』での暴力は、例えば、主流となっているハリウッド映画のようにお祭り騒ぎ的、娯楽的、魅力的には見えないということなのです。『ザ・トライブ』での暴力は、実生活でのようにリアルなものに見えます。実生活において暴力とは、醜くて嫌悪感を催させるものです。ですから、私の映画の登場人物を真似しようなどと考えることができるのは、非常に病んだ人だけでしょう。
主たる挑戦ということに関していえば、実のところ、この映画全体が挑戦でした。それは、映画に本来の意味を取り戻そうという試みだったのです。言葉のない映画は、映画館で見た方がよい映画ですから、他の問題は二次的であまり重要ではないと思います」
Q:監督が思う、人がしてしまう最も残酷な行為は、どんなことでしょうか??
スラボシュピツキー監督:「もっとも残酷なことは殺人です。私が好きな映画の一つである『許されざる者』の中で、クリント・イーストウッド扮するウィリアム・マニーが殺人について的確な表現を与えています。つまり、「人を殺すことで、お前はその人の生涯に起こり得た全てを奪い取っているのだ」というものです」
Q:聴覚障害者と撮影を進める上で、苦労されたエピソードやシーンがあれば教えてください。
スラボシュピツキー監督:「皆さんが同じ質問をなさいます。実際、私もジャーナリストだったら、その質問をしたことでしょう。問題なのは、その質問に対する面白い回答を私が持っていないということなのです。私たちが通訳者を介して仕事をしたということを除けば、特別なことは何もありません。たった一つ問題だったのは、ウクライナにおけるろう者の社会がかなり閉鎖的で孤立したものなので、彼らがこの社会出身でない人たちに対してかなり不信感を持っているということでした。これが私たちの越えなければならなかった最も大きな問題でしたし、私たちは、キャスティングの段階でこれを乗り越えました。撮影の終わりごろになると、私たちはあまりに一体になっていたので、誰の耳が聞こえなくて、誰の耳が聞こえるのか、よく分からなくなってしまっていました」
Q:本当は聞いてほしいのに、なかなか聞いてもらえない質問があれば教えてください。
スラボシュピツキー監督:「とても可笑しな話をしましょう。私のフランスでの販売会社Alpha Violetの共同所有者は日本人でケイコといいます。彼女は『ザ・トライブ』の大ファンなんです。カンヌでの初上映後の祝賀晩餐会で、私は彼女に、とても日本的な映画を撮ったよ、と言いました。彼女は大笑いして私に賛成してくれました。どういうことかといいますと、アジア映画を専門にしているある映画評論家が、アジアの映画監督は皆、我々ヨーロッパ人とは違って、直接、視覚的イメージでものを考えるのだという自らの理論を話してくれたことがありました。だからこそ、みんなこんなにも長いフィルモグラフィーを持っているのだとね。私たちは文章でものを考えるため、我々にあって最も多産な監督たちですら、生涯に十作品を撮ることができればいい方だというのです。『ザ・トライブ』は、まさに視覚的な映画です。だから、私は自分が日本的な映画を撮ったと考えていますし、ケイコも同意見です。本当にそうなのかどうかは、日本の観客の皆様に決めていただきましょう」
言葉が一番強く伝わるような気がしているけれど、
それ以上に雄弁なのは、仕草や態度、表情に、ちょっとした視線の先だったりする。
この映画をみる上で頼りになるのは、自分の想像力しかない。
全てを委ね、時計を気にすることなく世界に染まれるのは、映画ファンにとって極上の幸せなのだ。
取材:佐藤ありす
【STORY】
ピュアで、過激で、パワフルな純愛が暴走する
ろうあ者の寄宿学校に入学したセルゲイ。そこでは犯罪や売春などを行う悪の組織=族(トライブ)によるヒエラルキーが形成されており、入学早々彼らの洗礼を受ける。何回かの犯罪に関わりながら、組織の中で徐々に頭角を現していったセルゲイは、リーダーの愛人で、イタリア行きのために売春でお金を貯めているアナを好きになってしまう。アナと関係を持つうちにアナを自分だけのものにしたくなったセルゲイは、組織のタブーを破り、押さえきれない激しい感情の波に流されていく・・・。
『ザ・トライブ』
監督・脚本 : ミロスラヴ・スラボシュピツキー
出演 : グレゴリー・フェセンコ、ヤナ・ノヴィコヴァ
配給 : 彩プロ/ミモザフィルムズ
© GARMATA FILM PRODUCTION LLC, 2014 © UKRAINIAN STATE FILM AGENCY, 2014
4月18日(土)より、ユーロスペース、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!
http://thetribe.jp/