水道橋博士の選挙ドキュメンタリー『選挙と鬱』レビュー


本作は、2022年の参議院議員選挙にれいわ新選組から立候補した、漫才コンビ『浅草キッド』の水道橋博士に密着したドキュメンタリー。『選挙と鬱』というタイトルが示すように、選挙活動に取り組む博士の様子と、当選後に患ったうつ病による議員辞職後の姿がクローズアップされている。監督は『東京自転車節』『フジヤマコットントン』の青柳拓。監督募集の呼びかけに自ら名乗りを挙げたという。

選挙戦を描いたドキュメンタリー映画は多数あるが、本作は珍しいタイプに属している。ピリピリした雰囲気がほとんど感じられない点において。初めての選挙で苛立ちや緊張しないわけはない。にもかかわらず映し出される、弟子やブレーンたち選挙チームとの一体感は楽しげですらある。ベテラン漫才師ならではの周囲への気遣い、真面目でやさしい博士の人柄がしっかりと伝わってきた。青柳監督もまじめでやさしい。取材対象者である博士に向けるまなざし、ていねいに追い続ける姿勢に好感が持てる。

れいわ新選組の選挙スタイルも興味深い。立候補者に強い縛りやルールを課さず、自主性に任せていると感じた。

周知のとおり、博士は当選を果たしたものの、鬱病を理由に短期間で辞職。後に青柳監督が博士に遠慮がちに追ったシーンはハイライトといえるだろう。ふたりのやりとりに、もやもやが残るかもしれない。でも、青柳監督だから博士の心情が引き出せたのは確か。選挙戦映画としては本当に変わっている。
文 シン上田

『選挙と鬱』
配給・宣伝:ノンデライコ/水口屋フィルム
2025年6月28日(土)ユーロスペース、8月15日(金)フォーラム山形、8月16日(土)横浜シネマリン、8月30日(土)シアターキノにて公開

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