父親探しの実録ロードムービー『パドレ・プロジェクト~父の影を追って~』レビュー
『パドレ・プロジェクト~父の影を追って~』で映画監督デビューを果たした武内剛。シンガーソングライターや、ぶらっくさむらいという名前でお笑い芸人として活躍するマルチなタレントである。武内は日本とカメルーンとのハーフ。1980年、愛知県名古屋市で生を受け、日本人の母親に育てられた。母子家庭ゆえに、カメルーン人の父親との思い出はない。2020年のコロナ禍、「死ぬ前に一度でいいから、父親に会いたい」という父親への思いが抑えられなくなり、武内は大胆な行動に出た。
『パドレ・プロジェクト』を立ち上げたのだ。両親の出会いの地であるイタリア・ミラノに行き、父親探しの過程を映画にするために。そして、心温まるドキュメンタリー映画が完成した。
見知らぬ街での人探しは、困難を極めた。手掛かりは父の名前とプロフィール、昔の顔写真ぐらい。絶望的な状況ではあるが、武内とスタッフは根を上げない。街での聞き込み、チラシ配り、イタリアのテレビ番組へのアプローチなどを試みた。あるとき、大勢の黒人で賑わう怪しげなバーに、武内は飛び込んだ。
店内には強面な黒人ばかり。武内は恐る恐る近づいて、聞き込みを始める。誰もが協力的だったお陰で、父親の手掛かりを得ることに成功。展開は一気に加速していった。黒人ネットワークにおける情報共有力のスピードの速さは驚くばかり。黒人社会特有の強い絆の表れなのだろう。見ず知らずのハーフである武内に対して、協力を惜しまない態度も感動を覚えた。
80分の映像の中には、他にも多くの見どころがある。ひとつ挙げるなら、認知症を患い施設暮らしの母親との面会シーン。母親と向き合うときの武内の優しい眼差しと接し方が心を打つ。認知症ケアについても、いろいろ考えさせられる。武内は出演と監督以外に、編集・プロデュースも務めた。経験が乏しいにもかかわらず、やりきる行動力が素晴らしい。今後も映画を作り続けるというから楽しみである。
文 シン上田
『パドレ・プロジェクト~父の影を追って~』
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配給:ミカタ・エンタテインメント
2024年8月31日(土) 新宿K’s Cinema 9月20日(金)アップリンク吉祥寺ほか全国ロードショー