かつてないボクシングドキュメンタリー『破天荒ボクサー』レビュー
『破天荒ボクサー』は、山口賢一というボクサーの生きざまを描いた異色のボクシングドキュメンタリー映画。02年に大阪帝拳ジムからデヒューし、破竹の11連勝を飾った山口。念願の日本タイトルマッチ目前だったが、試合のオファーがない状態が続いていた。シビレを切らした山口は、JBC(日本ボクシングコミッション)に引退届を提出。ひとりで闘うことを決意して、戦いの場を海外に移すことにした。
努力は実り、アジア太平洋スーパーバンタム級暫定王者となり、メキシコでは日本人初のWBO世界タイトルマッチに挑戦という具合に着実にステップアップ。その後、OPBF(東洋太平洋ボクシング連盟)タイトルマッチのオファーが舞い込んだことをきっかけに、再び日本のリングに立とうとするが、山口の前に立ちふさがるJBCと元所属ジム……。
この作品を通して浮き彫りとなる、日本のボクシング業界の不都合な真実や問題点。録音テープや映像によって克明にさらされる。その他にも竹田倫和監督の撮影による、貴重なシーンも満載。フィリピンの小さな会場での試合、ランキングを上げるための交渉など。マニアックなボクシングファンや格闘技ファンは必見である。
もちろん、ボクシングに詳しくない方でも引き込まれる内容だ。クライマックスといえる終盤、妨害にも負けずに日本国内で世界タイトルマッチを開催するシーンは心を打つであろう。スポンサー探し、対戦相手と試合会場選びといった裏方仕事をこなしたうえで、世界タイトルマッチに向けて自分の練習もする山口。『破天荒ボクサー』のタイトルに偽りのないエネルギッシュな山口に引き込まれるに違いない。
文 シン上田
『破天荒ボクサー』
©ノマド・アイ
2019年7月6日より新宿 K’s cinemaにて公開