予測不能!! ユニークかつ不思議なデンマーク映画『アダムズ・アップル』レビュー



仮釈放されたアダムは、更生を目的に田舎の教会へ。指導役の聖職者イヴァンは快く出迎えたが、アダムは無視。ネオナチ思想にかぶれたスキンヘッドのアダムは、神はもちろん人間すらも信じず、心を閉ざしている。
イヴァンに教会生活での目的を聞かれると、「庭のリンゴを収穫してアップルケーキを作る」といい加減に返答。
アダムよりも先にこの教会で暮らしている、パキスタン移民のカリドと肥満男のグナーに対しても厳しく当たり散らす。更生の意思が見られないカリドとグナー。暴力的なカリドと、盗み癖がありアルコール漬けのグナーに対し、アダムはイラつくこともしばしば。

辛い現実から逃避しているのは、このふたりだけではない。聖職者のイヴァンもまた同じ。神を妄信的に愛することで、過去の苦しみから逃れていると、アダムは気づいたのだ。そして、アダムはイヴァンの自己欺瞞を執拗かつ強引に暴こうとする。
と同時に約束のアップルケーキ作りにも取り組むアダム、そして教会に暮らす人たちに次々に困難が襲いかかり、イヴァンは生死をさまようことに……。

『アダムズ・アップル』というタイトルから察しがつくように、本作のストーリーは『アダムの林檎』の寓話と旧約聖書の『ヨブ記』がモチーフとなっている。
特に日本人には馴染みの薄い『ヨブ記』については軽く検索してから観賞すると、より深い味わい方ができるのでは。
とはいえ、本作のストーリーと一致しているわけではない。『アダムの林檎』と『ヨブ記』に関する知識がなくても十分に楽しめる。

貫かれているテーマは、“人生をやり直すことは可能なのか”という誰もが一度は考える普遍的なものだから。
注目すべきは聖職者イヴァンを演じたマッツ・ミケルセン。穏やかでストイックな聖職者でありながらも、どこか風変わりな聖職者役を好演。
徐々に明らかになるイヴァンの心の闇を、繊細でひょうひょうとした演技で表現している。

本作がデンマークで封切られたのは、2005年4月。その年のデンマークのアカデミー賞というロバート賞において作品賞、脚本賞、特殊効果/照明賞を受賞。欧米のさまざま映画祭でも賞を獲得。14年前の素晴らしい作品が、日本でも封切られることはとても喜ばしい。

文 シン上田

『アダムズ・アップル』
配給:アダムズ・アップル LLP
2019年10月19日より新宿シネマカリテほか全国にて順次公開

記事が気に入ったらいいね !
最新情報をお届け!

最新情報をTwitter で