24年に及ぶ酪農大家族ドキュメンタリー『山懐に抱かれて』レビュー
『山懐に抱かれて』はテレビ岩手が開局50周年記念事業として製作した長編ドキュメンタリー映画。岩手県内のニュース番組や全国ニュース『きょうの出来事』、日本テレビ系列『NNNドキュメント』などで放送されてきた人気テレビ番組シリーズを、今回の映画化にあたって追加撮影や再編集を行い、ひとつの作品に仕上げたものである。
岩手県田野畑村で、酪農を営む吉塚家の奮闘ぶりがていねいに描かれている感動作といえよう。限りなく自然に近い環境で牛を育てる『山地酪農』に魅せられ、愚直なまでに必死に取り組んでいる吉塚家の主である公雄。そんな夫を支える妻と5男2女の子供たち。山を切り拓き、牛を完全放牧するという『山地酪農』は決して生産性がいい手法とはいえず、苦しい生活が続いた。長い間、プレハブの家でのランプ生活を余儀なくされたほどである。
厳しい状況ながら不平を口にせず、公雄を信じて共に生きる妻と子供たち。吉塚家の人たちはみんな純粋なのだ。この一家の物語が24年にも渡って、テレビで放送されている大きな理由は、登場人物の純粋さに尽きる。
24年もの間には、子供たちはさまざまな理由で公雄と衝突したこともあった。子供の成長と自立は必然と理解しながらも父・公雄は……。
ランプ生活から始まった吉塚家の物語には、平成の実際の出来事とは思えない純粋な愛に満ち溢れている。物質的には豊かではない環境であっても、父親の背中を見続けた子供たちは強く優しく育つ。この家族の絆を見つめるうちに、誰もが子育ての原点を再認識させられるであろう。
文 シン上田
『山懐に抱かれて』
製作著作:テレビ岩手 配給宣伝協力:ウッキー・プロダクション
©テレビ岩手
2019年4月27日(土)よりポレポレ東中野にてロードショーほか全国順次公開