日本の刑務所内を初めて撮影した社会派ドキュメンタリー『プリズン・サークル』レビュー
本作の舞台は、2008年開設の『島根あさひ社会復帰促進センター』。
ドアの施錠や食事の搬送は自動化され、ICタグとCCTVカメラで受刑者を監視する、官民共働型の先鋭的な男子刑務所である。
最大収容人数は2000名。犯罪傾向が進んでいない受刑者が服役しているという。
『TC(Therapeutic Community=回復共同体)』が日本で唯一導入されている刑務所でもある。
『TC』とは、受刑者同士が円座(サークル)状態で対話を行い、犯罪の原因を探り、更生を促すというプログラム。
このプログラムを通じて受刑者たちは、窃盗・詐欺・傷害致死など自身が犯した罪、幼少期に経験した貧困・いじめ・虐待といった辛い記憶と向き合いながら、更生と新しい生き方を模索していくことになる。
『プリズン・サークル』は『TC』を体験することによって、少しずつ変貌していく4人の受刑者たちをメインに描かれた作品。
刑務所内の取材許可が下りるまで6年、撮影2年、公開までおよそ10年の月日がかかったという。
撮影においても、受刑者に話かけることは許されず、顔を写すことも禁止された。
さまざまな規制が設定されたなかでの撮影は困難を極めたであろう。
だが、坂上香監督はクリエイティブの力で乗り越えた。
受刑者が過去のエピソードを物語るシーンで用いられた、サンドアートという砂絵によるアニメーションがそのひとつ。
繊細で壊れやすい心情や、苦い思い出を表現するのに効果的だったといえよう。
受刑者の顔を写し出せない撮影も、客観性と公平性の獲得に役立った。
主張の押しつけが感じられず、観る者を選ばない。
犯罪や刑罰について、さまざまな意見を持つ人たちの胸にも刺さるはずだ。
文 シン上田
『プリズン・サークル』
(C)2019 Kaori Sakagami
2020年1月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開