もう一度未来を照らす、再生ボタン『サヨナラまでの30分』レビュー



音楽の入手方法は、配信によるダウンロードが多くなり手軽さは増したが、CDは影が薄れていく昨今。いつの時代でも心の支えになっている音楽は、時に元気をもらい、癒され、まるで心情をなぞるかのごとく物思いにふける。よくよく考えると、自分自身のモチベーションを操作できる不思議なツールとも言える。

カセットテープという記録メディアを知らない人たちも多くなったが、本作はそのカセットテープに刻まれた記憶をつなぐ物語であり、今をときめく新田真剣佑と北村匠海のダブル主演で奏でる、甘酸っぱさも儚さもきちんと描かれた青春ラブファンタジー。原作ありきの映画が溢れるなかで、オリジナル脚本で仕上げられている。

「俺にこじ開けられない扉はない!」と、常に自信に満ちていたアキ(新田真剣佑)がボーカルを担当するバンド・ECHOLL(エコール)は、メジャーデビュー目前で夢を絶たれた。その理由は、突然すぎるアキの死。

それから1年後。人との関わりを避けて生きてきた就活中の颯太(北村匠海)は、偶然カセットテープの入ったレコーダーを拾い、テープが再生されている間だけ颯太とアキが入れ替わるという奇妙な現象が起きる。この世に未練があるアキは、解散の道を選んだECHOLLを再結成させようと、颯太の体を借りて暴走をはじめる――。

『君と100回目の恋』を担当した脚本家の大島里美が、レコードの次はカセットテープをモチーフに紡いだ本作。キャストが決まってからはあて書きしたというだけあって、理想的なキャラクター設定とともに主演の2人の活かし方には特に脱帽。

友達を必要としない颯太は、対極的な彼の行動に巻き込まれては困惑するばかりだが、徐々に変化が訪れる。ダンスロックバンド「DISH//」のリーダーでもある北村の歌唱力は無論言うまでもないが、入れ替わっている時の、まさに憑依的な演技がとてつもなく素晴らしい。本当にアキに見えてくるほどの北村の高い演技力が際立っている。

さらには本作で開花された新田の歌声には誰もが驚き、魅せるボーカルとして華のある存在感を放つ。カリスマ性のある新田自身の魅力を前面に押し出し、瞬く間に惹きつけられるだろう。また、強引さがウリであれほどにも自信家だったアキが、時折見せる悲しげな眼差しには、思わず胸を締め付けられるはずだ。

残された仲間たちの未来をもう一度照らそうとする彼にとって、カセットテープの存在はやはりカギとなる。バンドメンバーには、葉山奨之、上杉柊平、清原翔と、勢いのある若手陣が顔を揃え、悩んでもがいて振り回される姿に熱くなる。そして、アキの恋人・カナ役の久保田紗友が、凛々しさの中に潜む繊細さを体現。

アキが歌い、颯太も歌うライブシーンにはとにかく圧倒される。6曲にもおよぶオリジナル楽曲は人気バンド「androp」の内澤崇仁をはじめ、数々のミュージシャンによって制作されており、ストーリーとシンクロする名曲揃いで、音楽映画としても文句なしに成立している。時間とともに上書きされたECOLLのその先を、目で耳で見届けていただきたい。

文 南野こずえ

『サヨナラまでの30分』
(C)2020「サヨナラまでの30分」製作委員会
2020年1月24日全国ロードショー

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