どうしても変えたいと願う過去『あなた、そこにいてくれますか』レビュー



過去を変えてはならないというルールは、いったい誰が決めたのだろう。
自分を責めることしかできない想いを背負って生きるくらいなら、たとえ未来から消えてしまうものがあっても、痛みが伴うとしても、どうしても変えたいと願う過去があってもいいのではないだろうか。

フランスの人気作家ギヨーム・ミュッソのベストセラー小説「時空を超えて」を元に韓国で実写化された『あなた、そこにいてくれますか』は、過去の自分と未来の自分をつなぐ、タイムスリップ・ラブロマンス。もう一度だけ会いたい人がいると願うあなたの思いを乗せてくれる、優しい時間旅行である。

カンボジアを訪れた医師のハン・スヒョンは、治療のお礼に”過去に戻れる”という謎の薬を老人からもらう。半信半疑で飲んでみると、目の前に現れたのは見覚えのある男。しかも自分と同じ名前を名乗っており、どうやら過去に戻ってきたと理解する。わずかな時間だけタイムスリップできると悟ったスヒョンの手元には残り9粒の薬。

スヒョンは30年前に亡くなった当時の恋人であるヨナに、もう一度だけ会いたいと切実に思ってきた。意を決し、再び30年前の1985年に戻り過去の自分に事情を話すが、当然のごとくなかなか信じてもらえない。さらには未来にはヨナがいないことも告げようとするのだが……。時を越えた2人が、葛藤した先に選ぶ答えとは――。

韓国では2016年に公開され、公開1週目の観客動員数は『ラ・ラ・ランド』を上回って話題となり、韓国恋愛映画動員数で歴代1位の『建築学概論』を超える口コミ指数となったほどの人気ぶり。筆者的には日本でもヒットした『猟奇的な彼女』、『サニー 永遠の仲間たち』にならぶ傑作と言えるであろう。

『チェイサー』で数々の映画祭にて主演男優賞を獲得し、圧倒的な存在感を放っているキム・ユンソクが現在のスヒョン役だが、未来は変わらずに過去を変えようとする冷静さを好演。30年前の若きスヒョンを演じるのは、ドラマ『ミセン -未生-』からめざましい活躍をしている若手俳優のピョン・ヨハン。ありえない事態に戸惑いながらも押し殺す姿は、現在のスヒョンの面影を絶妙に残している。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『時をかける少女』などタイムスリップを描く映画は多くあり、 過去に戻って自分を演じたり、 過去の自分に会ってはならないなどパターンも様々。ファンタジーだからこそ作り出せる世界は、醒めてほしくない夢のごとく誰もが投影したくなる奇跡を叶えてくれる。

本作では2人の自分が未来を選択する部分が核となっており、周囲を巻き込む怖さに直面しつつ、互いの大切な人を守るために衝突するシリアスさに揺さぶられる。さらにはもうひとつの見どころとして、キーマンとも呼べる友人・テホの存在を忘れてはならない。コミカルだけでは終わらない彼の動向にもぜひ注目していただきたい。

未来とは過去の積み重ね。立ち止まって思いを馳せては前を向くのが現実だが、どんな時代に生きていてもどんな思いを抱えていても、そばにいてくれる友人のありがたみを痛感せずにはいられない。

文 南野こずえ

『あなた、そこにいてくれますか』
© 2016 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
10月14日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷 他 全国順次ロードショー

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