消えてしまうものほど美しい『光』レビュー
ピンボケしていた彼女をとらえた時、連写のような勢いで二人は惹かれあう。
すべてのフォーカスが合ったラストに言葉を失い、鳥肌が立った。
『あん』の河瀬監督×永瀬正敏が再タッグで奏でる、渾身のラブストーリー!
視覚障がい者に向けた、映画の音声ガイドの仕事をする尾崎美佐子(水崎綾女)。よかれと思って挿入した言葉は、聴く者からすると世界観を台無にしてしまうと痛感する。「彼らの想像力を理解すること」「映画って誰かの人生と繋がること」上司からの言葉を頼りに、見えるものを伝える難しさに戸惑う。何が必要で何が不要なのか……。どこかもどかしさを抱えながら生きている。
音声ガイドが適切に伝わっているかを意見するモニター会のひとりで、視力を失いつつある弱視の中森雅哉(永瀬正敏)は、美佐子がつけた音声ガイド対して冷たい言葉を放つ。無愛想な雅哉の態度に、苛立ちをあらわにする美佐子。
下を向くとわずかに見える雅哉が握っているのは二眼レフカメラ。皮肉にも天才写真家と呼ばれた過去を持つ彼にとって、カメラは心臓だと言う。どれだけ葛藤しても視力を奪われるしかない雅哉と、自信を失いつつある美佐子。“何故か気になる存在”同士が1枚の写真に突き動かされ、魂がそうさせるかのように距離を縮めてゆく――。
“カンヌの常連”河瀨直美監督が生み出した本作は、視覚障がい者向けの音声ガイドという映画界を巻き込んでの視点が注目を浴びており、『第70回カンヌ国際映画祭』コンペティション部門にノミネートされている。生きる意味を問いかけた前作の『あん』(2015年公開)で、音声ガイドを作ったことが着想のキッカケとなり「監督以上に映画のこと考えている人がいる」と感じたという。また、前作に続き永瀬との再タッグも互いに望んでいたため、だからこそ醸し出される空気は濃密さを増し、さらには思わず唸る瞬間も訪れる。
大切なものを失って平気な人間などいない。自分を守るように必死に隠して押し殺して、しかし片隅では理解して欲しいという矛盾を繋げては前を向く。その先には希望を求めるように。
『光』
キャスト:永瀬正敏 水崎綾女 神野三鈴 小市慢太郎 早織 大塚千弘/大西信満 堀内正美白川和子/藤竜也
監督・脚本:河瀨直美
©2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE
5月27日(土)、新宿バルト9、丸の内TOEIほか全国公開!
文・南野こずえ