逢いに行きたくなる映画館がある。
カメラ片手に全国をめぐり、映画とともに生きる人たちの想いをつづる旅。

大分駅から歩いて10分ほど。繁華街のはずれに位置する『シネマ5』は74席の映画館。1989年に『シネマ5』を引き継いだ田井肇支配人は「湯布院映画祭」の設立メンバーでもあり、現在は『シネマ5』と『シネマ5bis』(2011年開館)を運営している。大分市内にも昔はあちこちに映画館があり、過去に「シネマ1~4」も存在していたが惜しくも閉館となった。

引き継いだのはいいのですが、本当に色々ありましたし苦労は覚悟の上でした。とりあえず3年は続けようと思ってはじめたのですが・・・今に至っています。(田井支配人)
3年というワードに共感した。当シネマカラーズも“まずは1年、とりあえず3年”の勢いで立ち上げたことを思い出す。人は何かをはじめて1つの目途にするのは3年であることが多いが、苦労に鈍感でいられる期間なのかもしれない。

苦労って、体力やアイデアとかお金の面以外はどうにかなるんです。もちろん“映画好き”が根本にありますが、儲けたいとかラクをしたいならやめればいいだけ。今までの功績も称えてもらえますしね。やめるのは簡単なんです。(田井支配人)
想いに動き、動かされながらも、いつからか揺るがないものへと変わり、街に馴染んだ『シネマ5』。一度馴染んでしまうと抜けにくくなることはあるが、やめるのは確かに簡単である。ゆえに、儲けを問わない継続には進化への努力もあったことを物語っている。

独特な暗闇の中で、2時間だけ誰かの人生を生きられるんです。失恋や落ち込んだ時に観た映画に感動して、その作品の事をずっと考えていたら「あれ、どうやって家に帰ってきたんだっけ?」というような感覚は、映画館だからこそだと思います。(田井支配人)
ひと時に没頭し、誰かの人生を経験してみる。映画は時として気付きや支えになり、人生の岐路になることも決してオーバーではない。おそらく、支配人自身の体験を沢山の人にもという思いが主柱にあるのだろう。

“映画と観る人の仲介”なので、映画館はあくまで影に徹したいですね。ただ佇んでいるだけ、観る場所を提供しているだけでいいんです。(田井支配人)
作品を観る前後で余計な邪魔をしない配慮は非常に難しいものだが、『シネマ5』を訪れた印象に重なった。大学で講師も務めていた田井支配人には聞く者を引きつける力があり、紡がれる言葉には経験や人となりが織り込まれている。

この映画館が無い方がいいんじゃないかとも思うんですね。それは、次の世代やその次の世代のチャンスをふさいでしまっているかもしれないですし。(田井支配人)
会うと安心する人がいる、落ちつく場所がある。だが、あたり前の存在は皆無であると同時に、生きる上で失って困るモノは本当に稀である。とはいえ、いつの間にか代わるものを得ていたりする。『シネマ5』と『シネマ5bis』を対象とした会員制度ではファンを増やし続けており、劇場がどれだけ必要とされているかが明白だ。しかし溺れず、意地や頑なになってまで続けるよりも、譲るべき時が来たら潔く譲る覚悟をうかがえる。

謙虚をまっとうする、名わき役のような存在。懐が深い映画館『シネマ5』。

取材 南野こずえ

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