暴走!ロケ地めぐり『おおかみこどもの雨と雪』


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2012年7月に公開され、興行収入42億円を記録したアニメ映画『おおかみこどもの雨と雪』。本作に登場する母親(花)と子供(雪、雨)の親子3人が暮らす家のモデルになった古民家が富山県に実在する。その名も『花の家』。いまもなお、この場所を訪れるファンが後を絶たないのには理由がある。

映画の中で見た、いつか行ってみたい場所は誰にでもあるだろう。「いつか」を「いま」に変えるだけで出逢える景色はある。だから、ロケ地めぐりをする。

そんな想いをカバンに詰めて、まずは富山駅に到着。富山地方鉄道本線に20分ゆられ、上市駅にて下車し、駅前にある観光案内所へ。細田監督による直筆イラストが入ったノートには、ここに立ち寄り、『花の家』に向かった人たちのメッセージが綴られており、日本だけにとどまらず、海外からの記録も残されている。特別住民票には花・雪・雨の3人の名前が刻まれていた。
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ガイドマップとともに「熊が出るので、これを持っていってください」と渡されたのは、10円玉ぐらいの大きな鈴が3つ連なっている、熊よけ用の「熊鈴」だった。目的地がかなりの山奥であることが理解いただけるだろう。上市駅から3時間に1本程度のバスで20分走った終点の大岩で降り、さらに徒歩で向かう。川のせせらぎと熊鈴をBGMに、重たい山道を40分登り続ける。明日の筋肉痛は決定的だ。

『花の家』が視界いっぱいに入った。映像のままの佇まいに言葉を失った。心の中で「うぉーーー!」と叫んでいるこの瞬間が、ロケ地巡りの醍醐味である。

玄関で挨拶すると「どこから来たの?ゆっくりしてってくださいね。」と、温かく迎え入れてくれた。―――その10分後。縁側でおにぎりを食べながらぼーっとしていた。庭で畑を耕すおじさんたちを眺めながら、時間を忘れてひたすらぼーっと。それが許される場所だった。赤の他人の家なのに、懐かしさと心地よさに身を委ねるのは私だけではなく、誰もが同じ感覚に陥っているはずだ。写真を撮ることも忘れそうになる。
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2つ並んだ勉強机、雪の衣装、訪問者たちのメッセージなど、広い家の中には本作の場面を彷彿させる瞬間が散りばめられており、思い思いに過ごすことができる。図々しくも囲炉裏で焼きマシュマロをほおばりながら、家主である山崎正美さんにお話をうかがう事ができた。

「ここを通るのは山登りをするハイカーぐらいなので、ひと休みできるように無料で開放していたんです」(山崎)
山崎さん自身はここには住んでおらず、ハイキングを楽しむ方が自由に休めるように提供していた。扉の開け閉めなどをハイカーに委ね、ノートにメッセージを記していくのがいつの間にか定着したとのこと。

「ある日突然、電話があって。この家を映画のモデルにしたいというお話だったんです。正直、何を言っているのか理解できなかったんです。細田監督の事も知らなかったので。でも、細田監督との出会いによって、この家の運命は変わったんです」(山崎)
本作を手掛けた細田守監督は上市町出身。しかし、アニメを観ることのない方にとっては、監督の存在を知らなくても不思議ではない。2012年7月の公開当初から訪問者は徐々に増え、その年のお盆休みには650人もの人が訪れたという。山奥で静かに暮らしてきた築130年を越える古民家に、いきなり沢山の孫ができたのだ。ファンをもてなすため、山崎さんの親せきや友人にお手伝いをお願いするも、手が足りない状態だった。だが、決して断っていない故に、途絶えることなくたくさんの方が訪れている。
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「続けられるなら続けて、ダメならそれでもいい」(山崎)
出迎えてくれた方も、畑を耕していた方も、『おおかみこどもの花の家』のサポーターだった。休日だと100人前後で平日でも数十人、年間1万人の訪問客を温かく出迎え、もてなすためにいる方たちだ。近隣だけでなく、広島などの遠方からもお手伝いに来ており、この日も3人のサポーターがいた。無料で開放しているため、家の老朽化や屋根の雪降ろしなど、維持や管理などの必然的な費用も発生する。募金箱とお土産の売上げだけでは賄えないのは一目瞭然であり、山崎さん自身が負担しているという。それでも続ける理由とは―――。
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「リピーターも増え、若い方とのやり取りが生きがいですね」(山崎)
山崎さんのスマホには、この場所を訪れた方の連絡先がたくさん入っており、繋がる喜びが生きがいになっているそうだ。そして、山崎さんに会いに行くという意味も含め、誰かにとって1つの故郷になっているのだろう。

「懐かしい風景と自然豊かなこの家までの道のりを、歩いて楽しみながら来てほしい」(山崎)
山崎さんとサポーターの方にお礼を伝え、花の家に背を向ける。ひたすら登ってきた道を今度はくだり続ける。名残惜しく振り返らなかったのは、劇中でのあの台詞が脳裏をよぎったからだろう。

「しっかり生きて!」

また、焼きマシュマロを食べに帰ろう。

【おまけ】ookami010

花とおおかみおとこが待ち合わせに使っていた喫茶店の『白十字』は、東京の国立駅そばにある。2人が通っていた大学の目の前で、学生時代のシーンはこの周辺がモデルになっていることが多い。寒い中、ひたすら待ち続ける花が印象的だったので、とりあえずマネしてみた。

取材・スチール撮影 南野こずえ

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