哲学の授業がある北アイルランドの小学校を描いたドキュメンタリー 『ぼくたちの哲学教室』レビュー
本作は、北アイルランド・ベルファストにあるホーリークロスという男子小学校を舞台に繰り広げられるドキュメンタリー映画。校長でありながら熱血指導で生徒ひとりひとりと向き合うケヴィン・マカリーヴィーの奮闘が描かれている。
空き時間にトレーニングルームでの鍛錬を怠らないケヴィン校長。空手の有段者で、スキンヘッドかつ、マッチョな体つき。強面な風貌ではあるが、生徒への指導は優しく繊細だ。
日本人がイメージする校長のタイプは、生徒との接触が少ない管理職。だが、ケヴィン校長は違う。生徒とのコミュニケーションを重要視する。登校の際、ケヴィン校長は生徒ひとりひとりにハイタッチや声をかけ、率先してコミュニケーションを図るなどして。
校長でありながら教壇にも立つ。哲学の授業を受け持ち、熱心に問いかけ、生徒自身に答えを導かせる。校長が力を入れているテーマは、怒りについて。
ホーリークロス小学校があるこの地域には、カトリックとプロテスタントの対立による宗教紛争が長く続いてきた。暴力によって多くの命が失われ、1998年4月10日にベルファスト合意が締結されたものの、心休まる日が完全に訪れたわけではない。
紛争の体験者であるケヴィン校長の教育信念は揺るぎない。憎しみは必ず連鎖するのだから、憎しみの解決手段が暴力であってはならないと、非暴力を訴える。
すべての生徒たちに感情をコントロールできる、他人に怒りをぶつけない人間に成長することを願い、教壇に立ち続けているのだ。
ホーリークロス男子小学校の授業は示唆に富んでいる。子供に向けた指導であるが、大人の心にも強く突き刺さるはずだ。スクリーンを通じて触れてみる価値は大いにある。
文 シン上田
『ぼくたちの哲学教室』
配給:doodler
2023年5月27日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
©Soilsiú Films,Aisling Productions, Clin dʼoeil films,
Zadig Productions, MMXXI