狂気は境界を越えて『華魂 幻影』鑑賞記
ピンク四天王――低迷期のピンク映画を支えた四人の映画監督、サトウトシキ、佐藤寿保、佐野和宏、瀬々敬久のことである。
「【ピンク四天王】っていうのは、褒め言葉じゃないんですよ。「この映画は、お客さんが入らねえなぁ」って作品の監督たちを、劇場の支配人が皮肉を込めて呼んだのが始まりなんですから(笑)」
『バット・オンリー・ラヴ』(2015年/89分)上映の舞台挨拶、寺脇研プロデューサーがそんな風に言うと、同作品の監督・脚本・主演を務めた佐野和宏も微笑みながら頷いていた。とは言え、『バット・オンリー・ラヴ』はR18作品ながら好評のうちに全国公開が続いており、今後も【シネマ・ジャック&ベティ】(横浜市 中区)【シネマ・クレール】(岡山市 北区)【シアターキノ】(札幌市 中央区)【横川シネマ】(広島市 西区)【シネ・ウインド】(新潟市 中央区)での上映が決まっている。
同じく【ピンク四天王】の一人として数えられる瀬々敬久監督も、最新作『64ロクヨン 前編・後編』(2016年/121分・119分)が今も320館以上のスクリーンでロングラン上映を続けている。
やはり私たち映画ファンは、作家性が強く個性的な作品を生み出す彼らのことを、【ピンク四天王】と尊敬の念を込めて称するのだ。
そんな【ピンク四天王】の一角である佐藤寿保監督の『華魂 幻影』の公開が始まっている。
『華魂 誕生』(2013年/106分/R18+)から2年半、続編を待ちわびていた観客は、2016年7月16日(土)夜、名古屋シネマテーク(名古屋市 千種区)の公開初日に駆けつけた。
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狂気を発臭つラフレシア『華魂』舞台挨拶レポート
佐藤寿保監督 名古屋シネマテークさんには前作の『華魂』でもピンク映画の上映でもお世話になっていまして、ご挨拶に来たいというのは前々からあったんですけど、スケジュールの都合などで中々来れませんでした。今回、公開初日に来れたことは監督冥利に尽きることです。名古屋のエピソードとしましては、東映セントラルフィルムに入って早々、向井寛監督の『四畳半 色の濡れ衣』(1983年/83分)という野坂昭如原作、美保純主演という作品に助監督の下っ端で就きまして、昭和初期の遊郭の話なので、中村遊郭の跡地でやらせてもらったんです。映画の取っ掛かりから、何と言いますか……非常に苦労した記憶があります(笑)。今回も地下鉄でこちらに来たんですけど、「ああ、そう言えば……」みたいな感慨深いものがありました。
舞台挨拶に登壇した佐藤寿保監督は、名古屋シネマテーク初来館なのであった。
『華魂 幻影』ストーリー:
廃館間近の【くらら劇場】には閉鎖を惜しむ観客(吉澤健、真理アンヌ 等)が、旧作『激愛』(出演:川瀬陽太、愛奏)の上映に詰め掛けていた。映写技師・沢村(大西信満)は『激愛』映写中、スクリーンの中に黒ずくめの少女(イオリ)を見つける。上映後、沢村はフィルムをチェックするが、少女は写っていなかった。
劇場支配人・山下(三上寛)にも心を開かず、劇場スタッフ・裕美(稲生恵)にも気を許さず、昔自主映画を撮っていた頃の女優・みどり(川上史津子)にも情を見せず、空虚な日々を過ごす沢村だったが、閉館を翌日に控えた夜、黒ずくめの少女を客席に発見した。
沢村は少女の美しさに目を奪われるが、鏡越しに映った少女の頭部には、毒々しい真っ赤な華が大輪を咲かせていたのだった――。
佐藤監督 この作品は、廃館寸前の映画館を舞台にした映画です。自分自身は静岡の出身なんですが、静岡小劇場っていう小さな映画館で、週替わりで黒澤明特集、ATG特集、ピンク映画の若松(孝二)特集と、あらゆるジャンルを上映する場がありまして、R18でも高校生くらいで潜りこんで、映画に育てられたと言いましょうか……自分自身の実人生においても、映画館に育てられたという気持ちがあります。『華魂 幻影』は、それを反映したものです。世知辛い世の中に、世知っ辛い映画なんか撮りたくないんで、現実に負けないようなパワー溢れる映画だと自負しております。真理アンヌさんであるとか、三上寛さん、若手の大西信満にしましても、色々老若男女が暴れまわってる映画ですので、楽しんでいただけたらと思います。
主人公・沢村を演じる大西信満は、佐藤監督の思い出話に顔を覗かせた若松(孝二)組に縁の深い俳優だ。
劇中劇『激愛』の主演を演じる川瀬陽太は、『バット・オンリー・ラヴ』にも『64ロクヨン 前編・後編』にも出演している謂わば“【ピンク四天王】御用達”俳優である。
大西・川瀬という二人の“主人公”は陰陽の如き対比を見せ、直接の絡みがないはずの二人が激しく火花を散らしている。
前作『華魂 誕生』で人間たちに血の狂宴を齎した“華魂”は、『華魂 幻影』ではどんな狂気を撒き散らすのか――。
佐藤監督 まだはっきりした公開日時というのは出てないんですが、去年『華魂 幻影』を撮った後に、また肌触りの違う『眼球の夢』という映画を撮りました。こちらもオリジナルなんですが、ピンク時代から、あと『乱歩地獄』(監督:佐藤寿保・竹内スグル・実相寺昭雄・カネコアツシ/2005年/134分/R15+)でも脚本で組んでた夢野史郎と10年ぶりにタッグを組みまして、思い切ってやりたいものをやった映画なので、そちらも御覧になっていただけたらと思います。その節にはまたご挨拶に来たいと思っていますので、宜しくお願い致します。
『華魂』は四部作として構想された映画だそうだが、それ以上の続編の声も漏れ聞こえてくる。
近日公開の『眼球の夢』と合わせ、佐藤寿保監督から目が離せない。
そして、【ピンク四天王】の動向から目が離せない。
取材 高橋アツシ