狂気を発臭(はな)つ、ラフレシア 『華魂 HANA-DAMA』舞台挨拶レポート

ヒトにとって最も旧い感情は、恐怖だと言う。
映画『華魂 HANA-DAMA』は、観る者に恐怖を与える。恐怖の源泉は、ラフレシアじみたクリーチャーではなく、常軌を逸したスプラッタ描写でもない。ごく普通の人間にこそ、『華魂』の恐怖の真髄が有る。ヒトは、自分もやってしまいそうなありふれた行動に、恐怖を覚える。

そして、恐怖が飽和量を越えた時、ヒトは絶望する。
『華魂』劇中、登場人物の会話は丁々発止を踏み越え、狂気を帯びる。ヒートアップした感情のボルテージは留まる所を知らず、図らずも観客に“笑い”を齎す。スクリーンのこちら側と言う安全地帯に居るヒトは、余りの狂気を受け止め切れず、精神を安定させるため已む無く“笑い”へ逃避するのだ。だが……逃げられるものなのか?……“そこ”は、本当に“安全地帯”なのか?ヒロインの視線は筆舌に尽くしがたいほど強烈で、カメラではなくスクリーンのこちら側を……観ているヒトを凝視しているとしか、思えない。hanadama1

「途中、笑いが起きて嬉しかったです。でも、撮影現場では一切笑いはありませんでした」
2014年3月1日、名古屋シネマテークでの公開初日、舞台挨拶に立ったヒロイン瑞希役の桜木梨奈さんがそんな裏話を聞かせてくれた。

「ちょうどスケジュールが空いたので、昨日「よし、行こう!」と思いまして(笑)宣伝の人にお願いして、急遽来させていただきました」
そんなサプライズに近い登壇だったにも係わらず、近郊の耳聡い映画ファンはレイトショーの座席を埋めた。サプライズと言えば、もう一つ。先着16名限定で、なんと、瑞希お手製……もとい、桜木さんお手製のスイーツがプレゼントされたのだ。だが、観客にとって最大のサプライズは、ヒロインと一緒に『華魂』を観られたことかも知れない。桜木さんは、観衆と同じシートで初回上映を鑑賞したのである。

「瑞希って言う主人公を演じさせて頂いた時…おととしの11月に撮影をしたんですけれど、そのちょっと前にオーディションで台本を読んだんです。この瑞希って言う子は凄く酷い苛めに遭ってて…私自身はここまで酷い苛めに遭うことはなかったので…自分が経験してない所で、この子の気持ちを如何にリアルに演じることが出来るだろうか、私は本当にこの子に成れるのかな…自分とは懸け離れてると思ったから、大丈夫かなって思ったんです。けれど、佐藤寿保監督の演出の下、相談しながら現場で瑞希として演じることが出来て、この映画の本質をちゃんと描けたかなと、自分では思っております」hanadama2

そんな遠慮がちな言葉とは裏腹に、彼女は文字通り体当たり(フルヌード!)の演技で瑞希に成り切っており、目に前で快活に話す可憐な女性と『華魂』ヒロインのギャップに記者は驚かされるばかりであった。
『華魂』のヒロインたちは、叫ぶ。屋上で、桐絵(島村舞花)が叫号し、彩(中村映里子)が叫喚する。川原で、瑞希が絶叫する。このシーンが素晴らしかったので、上映後の桜木さんに話を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「『華魂』を観るのはこれで3回目なんですが…あのシーンは、観てると今でも泣いてしまうんですよ」
“ 瑞希”は、斯くも深く彼女に憑依したのだ。

『あまちゃん』で名を馳せた大友良英氏の音楽にもご傾耳を。弦楽器と管楽器が精神を不安定にさせるアンサンブルを奏で、ヒロインの激烈な眼差しにクラッシュ・シンバルが被さる時、狂気はスクリーンのこちら側をも侵す。

「自分と瑞希は全然違うと思ってたんですけれど、でも私、瑞希に似てる部分があるなって、最近になって…演じてる最中はわからなかったんですけど、気付くことがありまして。それがどんな点か、観て「桜木は、瑞希と何処が似てるのかな?」なんて、ふと思って頂けたらいいなって思ってます。私だけじゃなくて皆さんの中にも、瑞希の心だとか、他の登場人物に具わっている気持ちとか、誰かしらに共感して観て頂けたら、楽しんで頂けたらいいなと思っております」

そんな『華魂』、冒頭サブタイトルめいた「誕生」と言うテロップが出る。佐藤寿保監督は4部作を構想しているそうで、いまおかしんじ氏の脚本は既に3作目を準備中との噂もある。『華魂 HANA-DAMA』、どうやら今後もしばらく注目しなければいけないようだ。

いまおかしんじの脚本……佐藤寿保の演出……大友良英の音楽……様々な“恐怖”が折り重なり、恐怖は大いなる狂気を帯びる。そして、桜木梨奈……島村舞花……浅田駿(柴内役)……中村映里子……様々な“狂気”が九十九折りとなり、狂気は安全地帯をも脅かす。

スクリーンを真紅に染め尽くす狂気に、あなたは耐えられるだろうか……。

取材 高橋アツシ

『華魂』
桜木梨奈/島村舞花/浅田駿/中村映里子/伊藤マサヨ/丸山明絵/近藤ゆき
監督・原案:佐藤寿保
公式サイト http://hanadama-movie.com