映画はこうでなくっちゃ『セラヴィ!』レビュー



世界中を席巻した大ヒット作『最強のふたり』の監督コンビ、エレック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュの新作『セラヴィ!』がこの夏公開される。
国内外に惨憺たる出来事が満ち溢れる昨今、暗くなりがちな心に暖かな灯りをともす、最高にハッピーなフレンチ・コメディだ。

30年のキャリアをもつ、やり手ウエディングプランナー、マックス(ジャン・ピエール=バクリ)はひそかに引退を考えていた。今手掛けているのは、17世紀の古城でゴージャスな結婚式を行うピエールとエレナのカップル。ウエイターやホールスタッフの手配、バンドのブッキング、進行のプランニングとマックスは大忙し。

しかし超個性派揃いのスタッフたちは、トラブルを引き起こしてばかり。さらに、バンドマスターは自己主張が激しく、新郎のピエールはイヤミなナルシストで注文をつけまくる。今夜の式に向けて準備に追われる中、メイン料理の食材に問題が発覚しマックスは窮地に追い込まれる…。次から次へと起きるトラブルを乗り越え、マックスとスタッフたちは結婚式を成功させられるのか!?

右腕であるはずのアシスタントは短気で喧嘩っぱやく、パジャマ姿でウロウロするウエイター、経験有りと嘘をつきもぐりこむホールスタッフ、バンドのボーカルはライブのチラシを配り、結婚式専属カメラマンは仕事をせずビュッフェをつまみ食い。
問題だらけのスタッフに振り回されながら孤軍奮闘するマックスに同情しながらも、笑いが止まらない!
単なるドタバタコメディではなく、さすがフランス、言葉のかけあいやギャグも粋なユーモアに富んでいて、改めてこの国の品格を実感する。

頑固で真面目なボス、マックスとは対照的にスタッフたちは悪びれることなく、おバカな失敗を繰り返すが、なぜか憎めない。出来の悪い彼らに怒り、呆れ果てながらもマックスは決して部下を見捨てない。ウエディングスタッフとして集まった彼らは、まるで一つのファミリーのような絆を築いていくのだ。

ファミリーであり、彼らはフランスという国そのものでもある。アフリカ系やアジア系など様々な人種のスタッフがおり、フランス語が話せない者や不法就労の者もいる。多国籍国家であり、また近年は移民問題にも揺れるフランスの現実が、この小さなコミュニティの中にもきちんと投影されているのだ。

離婚問題、貧困、心の病ーースタッフそれぞれが抱える問題も随所にちりばめられており、彼らが決して明るい人生を生きているわけではないことは分かる。それでも彼らは笑い、他人を笑わせ、一緒に笑う。それは、どんな状況にあろうとも人生の幸福な側面を見つけ出すという、人間の逞しさではないだろうか。

作品を彩るのは個性的で魅力溢れるキャストの面々だ。主人公のマックスにはフランスの名優、ジャン・ピエール=バクリ。コワモテながらも根は優しく懐の深いマックスをチャーミングに演じた。マックスの親友で怠け者のカメラマン、ギイ役にジャン=ポール・ルーヴ、やんちゃなバンドボーカル、ジェームス役にジル・ルルーシュ、うだつのあがらない義弟のジュリアン役に『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』のヴァンサン・マケーニュなど、フランスの俳優が脇を固める。また、マックスとひそかに愛を育む女性ジョジアーヌ役には、グザヴィエ・ドラン監督作の常連スザンヌ・クレマンが名を連ねている。

なぜわざわざ映画を観てまで暗い気持ちになるんだ?映画は楽しく、明るく、私たちに勇気を与えてくれるもの。だから『セラヴィ!』を観よう。

文 小林サク

『セラヴィ!』
©2017 – QUAD + TEN – TEN FILMS – GAUMONT – TF1 FILMS PRODUCTION – PANACHE PRODUCTIONS – LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE
7月6日(金)シネクイント、新宿シネマカリテ、池袋HUMAXシネマズ 他全国公開

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