飯テロ映画で幸せ気分『劇映画 孤独のグルメ』レビュー



え?あの“孤独のグルメ“が映画化?そう驚かれた方も多いでしょう。一度も見たこと無い方に少し説明を。2012年からテレビ東京系列の深夜で放送開始以降、10シリーズ、スペシャル版と長きに渡って放送されてきて今やテレビ東京の看板番組と言っても過言では無いドラマ。あらすじは、輸入雑貨の貿易商を個人で営む井之頭五郎(松重豊)が営業先で偶然見つけた飲食店にふらりと立ち寄り、食べたいと思った料理を自由に食す。五郎にとっての「至福の時間」を描いたグルメドキュメンタリードラマなんです。また実際に営業されている飲食店で撮影しているため、放送後にはそのお店に出向き、料理が食べられるのも魅力の一つ。そんなバラエティ色があるドラマが映画になったのだ。驚きとともに興味津々で鑑賞していく。

この物語はパリに向かう飛行機の機内から始まる。食に対する五郎のこだわりが機内食の提供時から発揮。あれもこれも食べたいという五郎節炸裂の彼の行動に思わず笑ってしまう。分かるなあ。この感覚、期待するあまり優柔不断になってしまうのだ。今後おそらく飛行機に乗った時には、このシーンを思い出し“やだ、今、私、井之頭五郎していた“と苦笑してしまうだろう。さて、到着したパリではかつての恋人小雪の娘松尾千秋(杏)が祖父松尾一郎(塩見三省)の幼少期に飲んでいた“いっちゃん汁“をもう一度飲みたいという願いを五郎に依頼する。そしてまだ見ぬスープの味に思いを寄せ、五郎の孤独な旅が始まったのだ。

今回映画版ということもあってテレビシリーズの「一軒の飲食店だけを訪問」という枠組みを超えて様々なお店が出てくる。そこで往年のファンにはお馴染みの「腹が。。減った。。。」のセリフとともに、棒立ちしてしている五郎からカメラが引いていく通称“孤独カット“が何回も観れるのが嬉しい。
ただ、五郎が何を食べたのか?はここでは一切触れません。それはぜひ五郎の心の声を楽しみながら、自分の目で味わい食べたことない料理に想像を膨らませていただきたいとともに、このシーンはテレビシリーズ同様一番の見せ場でもあるのです。料理の数々を大画面で観る。これも観客にとっても至福の時間。
また、スープの味の再現という無謀な冒険に出た五郎が行く道には、一つの食に対して誠実な五郎の想いに感化されて人々が協力する。そこには、人と人が結び合う優しさが随所に散りばめており、幸せな気持ちになるような仕上がりになっている。まさに物語の筋を持った映画という“劇映画“の題名にふさわしいと頷いた。
そして、それは長年主役を演じられた俳優松重豊の作品への愛であり、ロケ先で出逢った人々への恩返しにも感じられた。

今作はテレビ東京開局60周年を記念して制作された映画であり、主演の松重豊本人が自ら監督としてメガホンを取った意欲作である。また、内田有紀『ばかもの』磯村勇斗『若き見知らぬ者たち』オダギリジョー『東京タワ ーオカンとボクと、時々、オトン』と演技派俳優が共演。韓国では『梨泰院クラス』のユ・ジェミョンの出演も見どころである。
上映が終わってから劇場を出て飲食店に駆け込んだのは言うまでも無い。

文:内野ともこ

『劇映画 孤独のグルメ』
2025年1月10日公開
©2025「劇映画 孤独のグルメ」製作委員会

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