家族って面倒くさいけど、可笑しくて愛おしい。『お母さんが一緒』レビュー


『ぐるりのこと。』の橋口亮輔監督が、江口のりこ、内田滋、古川琴音の三人の実力派女優をキャストに集めたホームコメディ『お母さんが一緒』。しかも『ハッシュ』『恋人たち』など人間ドラマを数多く手掛けてきた橋口監督が、9年ぶりにメガホンを手にとった作品は喜劇。これは、期待がふくらむ。

まずは、あらすじから記していく。母の誕生日に温泉旅行に連れてきた三姉妹。古びた旅館に着いた途端、置いてある浴衣がカビ臭いと文句を言い出す長女・弥生(江口のりこ)。次女・愛美(内田慈)は、心の中では頭の良い姉に劣等感を抱きつつ、適当に話を合わせるお調子者。一方、弥生は弥生で妹二人が「美人姉妹」と言われていることに引け目を感じていたのだ。そんな姉二人のやり取りを冷めた目で見ている三女・清美(古川琴音)。この三姉妹が、今夜の夕食時に行われる「母の誕生日会」の計画を練り始める。そこで、三女はサプライズで「母に結婚の報告をするということ」を姉たちに伝えた。ましてや婚約者を連れてきたから、さあ大変。独身の姉二人は、心穏やかでは無い。姉として冷静に対応するも段々と本音が出てきて、ブラックユーモアたっぷりの修羅場へと展開していく。

夕方、宿についてから翌朝までのたった一夜の会話劇で成り立っている本作。まず会話のテンポが良い。そのテンポに見ている側も引き込まれていく。いつの間にか三姉妹の家族の一員になって、事の成り行きをドキドキしながら見守っている。あまりにも本音を言いすぎて、友達なら縁が切れてしまうところだ。だが、三人の感情が爆発した姿になぜか笑ってしまう。激しい罵り合いの合間に、コミカルなシーンを織り交ぜるバランスが絶妙にうまいからだ。そして三姉妹の秘めたコンプレックスも言い合って笑いにしてしまえば良いんだと気づく。そう言いあえるのも姉妹だからこそ、同じ母親を持つ者同士わかり合ってるからこそ、なんですね。家族って、「めんどくさいけど自分にとって一番の理解者たちなんだ」と思うと、温かい気持ちになった。

劇作家ペヤンヌマキが主宰する演劇ユニット「ブス会*」で発表された同名舞台作品を、橋口亮輔監督がホームドラマチャンネル開局25周年にドラマ化し、劇場用に再編集した本作。長女・弥生を『ぐるりのこと。』で橋口監督と2度目のタッグを組む江口のりこ、次女・愛美を『ピンカートンに会いにいく』の内田慈、三女・清美を『みなに幸あれ』の古川琴音、清美の恋人タカヒロをお笑いトリオ「ネルソンズ」の青山フォール勝ちが演じる。演技派女優三人の演技合戦に圧巻。

思いっきり笑ってください。
その先には、きっと心が軽くなっているはず。

文 内野ともこ

『お母さんが一緒』
©2024松竹ブロードキャスティング
2024年7月12日新宿ピカデリーほか全国公開

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