いつかまた出会う、その日のために『パストライブス／再会』レビュー

2024/03/222024/03/25

韓国、ソウル。12歳の少女ノラと少年ヘソンは仲が良い幼なじみで、お互いに淡い恋心を抱いている。ずっと一緒にいると信じていた二人だが、ノラの一家がカナダへ移住することになり離ればなれになってしまう。それから12年後、24歳になった二人はニューヨークとソウルでそれぞれの人生を歩んでいたが、あるきっかけによりオンライン上で再会する。これまでの空白を埋めるように交流を深めてゆくが、お互いを想うがゆえにすれ違い連絡を絶ってしまう。さらに12年後、36歳になったノラ(グレタ・リー)は作家仲間のアーサー(ジョン・マガロ)と結婚していた。それを知りつつも、ヘソン(ユ・テオ)はノラに会いにニューヨークを訪れる。『パストライブス／再会』は12歳で別れた初恋の人と24年の時を経て再会を果たす二人の姿を描いたラブストーリーだ。

運命の相手と呼べるのはどれぐらいのレベルでないといけないのだろう。出会うはずのない二人が出会ったり、何度別れても再会したり、他に恋人や配偶者がいても止められない、それが運命なのだろうか。
想いを口にするすべも知らぬ12歳で別れたノラとヘソンは24歳の時にオンライン上で再会する。ノラは作家になる夢を追ってカナダからニューヨークへと再び移住し、ヘソンはソウルの大学で学んでいた。北米育ちの野心的な彼女と、韓国に根付いて暮らす彼の間には微妙なずれが生じせっかく繋ぎ合わされた縁はふたたび途絶えてしまう。そして36歳ーー。二人はついにニューヨークで対面を果たすが、ノラは既にアーサーと結婚していた。

もし二人が運命の相手ならば、24歳の時に交流を絶つことはなかったのではないか。ヘソンを想うならノラはアーサーと結婚しなかったのではないか。ノラはアーサーと別れ、韓国でヘソンと生きる道を選ぶのではないか…。そんな風に思ってしまうが、何もかも振り切り捨て去り、突き進むだけが運命の恋だというのか。住みたい場所や国、手に入れたいキャリア、心地よく一緒に生きていけるパートナーがそばにいるか、「自分は人生をどう生きたいか」が芯にあるほど恋愛感情で選択することは難しくなる。ノラはニューヨークで作家のキャリアを積み、結婚7年目を迎えても恋人のような夫と仲睦まじく暮らしている。一方のヘソンは韓国で生まれ育ち兵役を経験し、これからも韓国で生き続けるであろう青年だ。それが二人の人生にとっては最適で最良なのだけれど、それを理解していても、何年経っても、会わなくても、お互いの存在が心に有り断ち切れない、そしてこれからも忘れることはない。そんな想いがある限りたとえどんな結末を迎えても、二人にしかない運命は確実に存在する。再会したノラとヘソンがニューヨークで過ごす時間は柔らかで優しく、無言で交わす眼差しには言葉に出来ない想いが溢れている。それはどんな言葉よりも饒舌に愛を語っていた。

作品のキーワードとなるのは韓国語で「縁」を意味する“イニョン”という言葉だ。日本語にも「袖振り合うも多生の縁」という言葉があるが、見知らぬ人と袖が触れ合う程度のちょっとしたことも全て前世からの因縁によるという意味から、どんな小さな事も偶然ではなく深い縁によって起こるという。ノラとヘソンも“イニョン”を大切にしており、それが物語の結末にも繋がって行く。
本作が長編映画監督デビュー作となるセリーヌ・ソンは、12歳のときに韓国からカナダへ移住した自身の体験をもとに脚本を書き、本作は今年の『第96回アカデミー賞』で作品賞、脚本賞にノミネートを果たした。ノラ役にはNetflixのドラマシリーズ『ロシアン・ドール』(19～)や声優として参加した『スパイダーマンスパイダーバース』(19)などで知られるグレタ・リー。ヘソン役には『担保』(20)、『別れる決心』(22)、『その恋、断固お断りします』(23／Netflix)などに出演するユ・テオ。

この映画をうまく、簡潔に表現する言葉が見つからない。哀しいけれど幸せで、ノスタルジックだけど現実的でもあり、過去への決別でもあり未来への約束でもある。そしてラストシーンで二人が出す答えは今まで観たことがないぐらいとんでもなく切なく、そして完璧で優しい。これほど希望に満ち、前を向く勇気を与えてくれるがラストシーンが他にあるだろうか。結ばれるかどうかという単純な結末ではなく、それよりももっと先へとたどり着いた揺るぎない愛に満ちた映画だ。言葉に出来ない幾多の想いに彩られたこの美しい運命をぜひ、劇場に足を運び体感してほしい。

文　小林サク

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