笑いで癒されるような作品づくり『愛の茶番』江本純子監督インタビュー
劇団『毛皮族』を主宰する江本純子の監督第二作目となる映画『愛の茶番』。折り合いが悪い姉妹を中心に、愛に翻弄される人たちの様を捉えた演劇的要素溢れる作品だ。江本監督の映画体験や本作についていろいろと話を伺った。
――映画や映像に興味を持ったのはいつぐらいですか。
演劇をやるようになって、本格的に観るようになりました。脚本とか資料的に。
――好きな作品とか監督は。
これがベストという作品はありません。自分の原動力になった映画があるかといったら……。よく観ていたのは、ミヒャエル・ハネケ監督のデビュー作『セブンス・コンチネント』。自分が演劇作品を創るうえでも凄く参考になりましたね。脚本の勉強を一番していた20代の頃は黒澤明ばかり観て、黒澤作品の脚本を数多く手掛けていた橋本忍さんの脚本を読んでいました。その前は東映の池玲子主演の鈴木則文監督作が好きでしたね。30代に入ってからはカルチャー系の洋画。最近はU-NEXTで、だいたい毎日観ています。
――2016年に公開された江本さんの監督デビュー作『過激派オペラ』はどのような経緯で撮られたのでしょうか。
「撮りませんか」と監督のオファーがあったのがきっかけです。女同士の恋愛映画を撮りたいというプロデューサーが原作を探していたとき、私のマネージャーが『股間』という私の小説を提案したら、「これをやろう」となって、監督も私がすることになったんです。
――『過激派オペラ』から『愛の茶番』まで4~5年ぐらい時間が空きました。
年を越したらもう6年ですよ。『過激派オペラ』のときに、映画のことを知らなすぎるなと思ったので勉強をして、実践として撮ったんです。ただ、その撮った素材で編集するとき、凄く時間がかかりました。そのときに初めてプレミアムプロを扱ったんですよ。
――編集センスが素晴らしいので意外です。
編集に四苦八苦して、撮ってから1年以内には完成したんです。それが2時間52分あって。長いですよね。でも撮ったすべての素材は約23時間。
――大変な作業ですね。
これをまとめ上げて、何人かに観てもらって、感想をもらいました。それから「これを世に出していいのか?」と悩み出し、作り直すことにしたんです。編集し直しを決めたときから、1年半以上かかりました。お待たせしていたクラウドファンディングの支援者たちへのお返しと、待たせているという苦しみから自分が解放されないと生きていけないと思って完成させました。それが2年前です。そこから公開まで2年がかかりました。
――そのような長い道のりがあった『愛の茶番』の紹介をお願いします、
どっちかというとストーリーで楽しませる映画ではないですね。状況からくる状態というものを、私の演劇的演出を使って、映画にいる人物たちの状態のための演技を俳優さんたちにお願いしていただいて撮っている作品。そこに見える人の姿、私は人間の状態という言葉を使うんですけど、感情や身体を見てくださいという感じです。自分が創る演劇もですけど、言ってしまえばコメディー。笑いで癒されるような作品づくりを『愛の茶番』でもしています。コントとは違って、エンタメの王道的コメディーではないですが、こういう類のコメディーもありますよとお伝えしたいです。
――演劇的な演技が刺激的です。どのような演出をされたのでしょうか。
演劇的演技って思われたのは、俳優と共に観客が存在していたから。観客がいるのって、その人たちの存在を演者は絶対に無視できないものなんです。結果、カメラの前でお芝居をする通常の撮影よりは、ニュアンスの違う演技になったと思います。
――俳優陣の熱量が凄く、魂を吐き出すようなセリフが飛び交うような感じがしました。アドリブの要素も含まれているのですか。
ほぼアドリブです。
――ほぼですか。ある程度の設定や決めごとは設けましたか。
決めごとは、各自が演じる登場人物のバイオグラフィー的な20年分の年表があるぐらいで、それが各俳優の唯一手掛かりとなる設定です。その人物の性格とかは用意しないですよ。単にその人物に起こった20年分の出来事だけを渡していく感じです。
――だからなのでしょうか、俳優の一挙手一投足から緊張感が漂っていました。
ジョン・カサベテス監督作『こわれゆく女』のジーナ・ローランズが病院に戻らなくてはいけないときに、家の廊下でみんなが彼女の動きを凄い緊張感を持って待っているシーンがあるんですよ。即興だと思うのですが、ああいうのが本当に大好きで。あと大島渚監督の『日本の夜と霧』。最初の15分ぐらい、一発撮りのようで俳優の人たちが凄い緊張していて、佐藤慶さんはめちゃくちゃ噛んでいましたが、凄い生々しくて緊張感があって。そのような作り物じゃない張り詰めた緊張感がある時間というものを常に撮りたいと思ってはいます。
取材・撮影 シン上田
『愛の茶番』
©”渇望”2024
2024年12月7日(土)渋谷ユーロスペースほか順次公開!!