愛はどうしようもなく、愛『キャロル』レビュー


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本年度アカデミー賞最有力候補と目される『キャロル』が2月11日に日本公開される。
名匠トッド・ヘインズ監督が描くのは、人気作家パトリシア・ハイスミスの原作を元にした、1950年代のNYを舞台にした女性同士のラブストーリー。
しかし敬遠する必要はない。本作は紛れもなく普遍的で純粋な愛の物語だ。何も考えず、ただ観てほしい。

1952年、ニューヨーク。
クリスマスが近づき、街はせわしなく賑わいを見せる。高級百貨店のおもちゃ売り場でアルバイトをするテレーズ(ルーニー・マーラ)がふと売り場に目をやると、ある女性に目を奪われる。
ブロンドの髪に完璧なファッション、エレガントな佇まい。
テレーズは一瞬でその人に魅了され、彼女(ケイト・ブランシェット)もすぐにテレーズに気づいた。
二人は客と店員として当り障りのない会話をする。キャロルと名乗るその女性が忘れた手袋をテレーズが郵送したことから、二人の交流が始まる。

テレーズは人生に迷い、自分がまだ何者かも望みすらも分からない。
恋人リチャード(ジェイク・レイシー)のプロポーズにも答えを出せず、無為に日々を過ごす彼女は、優雅で美しい大人の女性、キャロルに憧れる。
だが、キャロルはその華やかさとは裏腹の苦悩を抱えていた。
不幸な結婚生活の末、夫のハージ(カイル・チャンドラー)とは別居し離婚調停中だが、離婚を望まぬ夫はキャロルの素行を問題にし、6歳の一人娘リンディの単独親権を主張する。
審問までリンディに会うのを禁じられたキャロルは、悲しみを振り払うようにテレーズと共にひたすら西へと旅に出る。
強く惹かれ合う二人を待ち受ける未来とはーー。

運命の恋に落ちた時、その背景ーー互いの年齢差、立場、性別といったものーーは関係無くなる。テレーズとキャロルも、出会いから瞬く間にお互いを特別な存在だと認識するようになる。それは理性では説明出来ぬ感情であり、元より説明できるようなものなら、それは運命だと言えるのだろうか。
急速に深まる関係も、この作品では違和感を感じさせない。まさに「なるべくして」という確信が、二人を繋ぎあわせる。

テレーズはキャロルの優美さ、成熟さに恋い焦がれ、彼女に不遜な態度を取られただけで傷つき、涙をこぼす女の子だった。
しかしキャロルへの愛と、それが生み出す途方もない痛みを経験し、テレーズは自分の意思で生きる女性へと変貌する。
それが愛が人を強くする側面であるならば、反対に、関係をリードしていたはずのキャロルが、いつしかテレーズを恋い焦がれるようになるのは、愛が人を弱くする側面であるのか。
どちらも愛がもたらす美しい現象だ。

50年初頭のくすんだ色調、戦後を脱しアメリカに本格的な繁栄が訪れる少し前のざわめく時代、耳に心地よいオールディーズの数々…作品を彩る全てが美しく、心を酔わす。
それらをバックに立つ、美しい二人の女優から目が離せない。
ルーニー・マーラとケイト・ブランシェットは作品にリアリティと愛を吹き込み、きらめく宝石にした。

原作の「The Price Of Salt 」は1952年の初版時、ハイスミスではない別名義で出版されたのだが、それは女性同士のラブストーリーを描くことで、レッテルを貼られるのをハイスミスが懸念したからだと言われている。
どうか、この映画にもレッテルは貼らないで欲しい。
「女性同士の」ラブストーリーではあることは明白だが、それより前に二人の人間がどうしようもなく、愛し合う物語なのだ。
そこには誰もが自身の愛を投影させる普遍性が、確かに存在するのだから。

文:小林サク

タイトル:『キャロル』
2016年2月11日(木・祝)より、全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム
(C)NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

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