キューポラから出たばかりの鉄の子は―― 『鉄の子』レビュー
りこんどうめいのやくそく
・どうめいのことは2人のひみつ。
・りこんするまであきらめない。
・りこんするまでなるべくケンカはしない。
・やくそくをやぶったら し け い
陸太郎(佐藤大志)は、川口市で暮らす小学2年生。引っ込み思案の性格で友達は少ないが、亡き父・鉄夫が働いていた鋳物工場に馴染みの職人(スギちゃん)がいてくれる。ある日、母やよい(田畑智子)と二人で暮らす家に、荷台に家具や日用品を積んだ軽トラックがやってくる。運転席には母の再婚相手・紺(裵ジョンミョン)、助手席には紺の娘・真理子(舞優)。陸太郎には、同学年の姉が出来た。お互いのことだけでなくその親にも好感が持てない陸太郎と真理子は、“りこんどうめい”を結成し、やよいと紺の離婚を目指し様々な“さくせん”を決行する――
さくせん①
☆りょうりがへたくそだからキライになる
さくせん②
☆オバケがこわいからいえをでる
さくせん③
☆おとうさんのワイシャツにくちべにをつける
『鉄の子』は、家族のかたちを独自の視線で描いた、“マルチビュー・ヒューマンドラマ”である。
探偵、調理師、キックボクサー……“スロー・スターターの新鋭”福山功起監督の映画が異彩を放つのは、異色の経歴が作品に特別な力を与えているからなのかも知れない。前作『夜だから』(2014年/92分)は福山監督の初長編作だったが、もがけばもがくほど互いを傷つける男女(波岡一喜・千葉美裸)の破滅的な愛を、狂おしくも美しく活写していた。
福山監督の少年時代の体験が投影されていると言う今作は、子役の存在がとにかく光る。
佐藤大志は、物語の語り部的存在である陸太郎を、本格的な演技は初挑戦と思えないほど堂々と務めている。
『毎日かあさん』(監督:小林聖太郎/2011年)『花宵道中』(監督:豊島圭介/2014年)『さいはてにて-やさしい香りと待ちながら-』(監督:姜秀瓊(チアン・ショウチョン)/2015年)と順調にキャリアを積んできた舞優は、この真理子役で大きなステップアップを遂げた。
また、『鉄の子』の物語と同様、大人だって確りと存在感を示す。
園 子温監督作品、『極道兵器』(監督:坂口 拓・山口雄大/2011年)『デッドボール』(監督:山口雄大/2011年)など、作品ごとに役の大きさ以上の強烈な爪痕を残し続ける裵ジョンミョンは、今作でも“憎めないクズ”と言う難役を何なく熟して輝きを放つ。
お笑い芸人・スギちゃんが意外な(失礼!)演技の才覚を見せつけ、土居志央梨は『赤い玉、』(監督:高橋伴明/2015年)同様の小悪魔ぶりで印象を残す。
そして、『ふがいない僕は空を見た』(監督:タナダユキ/2014年)の田畑智子が、流石の演技で観る者を唸らせる。実子・陸太郎と、義子・真理子……二人の子供たちへ向ける微妙な表情、声のトーンなどニュアンスの違いを、是非ともスクリーンで確かめてほしい。また、時折覗かせる、夫・紺ちゃんへの“女性性”も見逃せない。
そして、もう一つ……エンディング・テーマにもご傾聴を。二人組ユニット・GLIM SPANKYの『大人になったら』と言う曲で、今は言葉を見つけることが出来ない陸太郎や真理子が10年後に心情を搾り出したかのような『鉄の子』にぴったりの楽曲だ。映画『鉄の子』は、エンドロールまで楽しめる74分なのだ。
溶銑炉(キューポラ)から出たばかりの“鉄の子”は、熱く、扱いづらい。そして、柔らかく、強い。
文 高橋アツシ
『鉄の子』
キャスト:田畑智子/佐藤大志 舞優/裵ジョンミョン/スギちゃん 監督:福山功起
エンディング曲:「大人になったら」GLIM SPANKY(ユニバーサルミュージック/アムニス)
2015年/日本/74分 配給:KADOKAWA ©2015埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ
公式サイト:www.tetsunoko.jp
2月13日(土) 角川シネマ新宿、MOVIX川口ほか全国順次公開