僕のCARNIVALな生活 『フリーキッチン』鑑賞記
2016年2月6日、名古屋シネマテーク(名古屋市 千種区)のレイトショーには沢山の映画ファンが脚を運んだ。
名古屋に縁の深い中村研太郎監督が、ヒロイン大貫真代を伴い、監督作『フリーキッチン』を引っさげて、これまた縁の深い名古屋シネマテークの舞台挨拶に立ったのだ。
『フリーキッチン』(2013年)は、福満しげゆきのデビュー作を原作としたホラーテイスト溢れるブラックコメディ。『僕の小規模な失敗』『うちの妻ってどうでしょう?』など独特の鬱屈したエッセイ風漫画で知られる福満しげゆきのデビュー作が、【ガロ】に掲載されたカニバリズム作品であることに先ず驚いた。
『フリーキッチン』Story:
17才の誕生日を間近に控えた浅野ミツオ(森田桐矢)は、母キョウコ(延増静美)と都心のマンションで暮らしている。行方不明とされている父親(山崎和如)は、ミツオが小学生の頃に“食材”となった。それ以来、浅野家の食卓には“肉料理”が上がるようになる。“肉食”で育ったミツオは、食べれば性別や年齢、果ては人種までも判るようになってしまった。いじめられっ子で友人のいないミツオにとって、唯一心を許せるのはペットのトカゲだけだ。ある日、いつもはネットで購入する餌用のコオロギを切らしてしまい、ミツオは近所のペットショップに出掛け、店員のカナ(大貫真代)と顔見知りになる。次第にカナと打ち解けていく中、ミツオは自身の深い闇に気付いてしまう――。
81分の上映時間中は観客席から乾いた笑いや小さな悲鳴が上がり、上映が終わると二人の登壇者が割れんばかりの拍手で迎えられた。
――『フリーキッチン』は、実は名古屋で撮られたオリジナル版(2000年/40分)のリメイクなんですが、その辺りの経緯をお聞かせください
中村研太郎監督 23~7才くらいまで名古屋に住んでまして、その時、福満しげゆきさんの原作を読み、8mmフィルムの映画にしてみようと思ったんです。40分の短編だったんですけど、実は当時、福満さんに無断で映画化してしまってまして……許可を頂くために連絡を取っていたのが上手く行かず、「まあ、いいか」となってたんですが……インディーズの映画祭で賞(長岡アジア映画祭 審査員特別賞)を頂いて、「これは拙い」と思い、一旦世に出すのを止めようと思ったんです。でも、ネタが面白いし、やり残した事も沢山あったんで、もう一度やりたいと何年も考えていて……。改めて、福満さんに連絡したところ……ちょっとネガティブな感情もあったようですけど、快く許可して頂きました。3年前に撮影して、ようやく去年から公開できまして、大変光栄に思います
大貫真代 『フリーキッチン』は、オーディションで選んでいただきました。本当に台本が面白くて……今日、端っこの方で観てたんですけど、最後のシーンで皆さんの反応があったので、凄く嬉しかったです。リアルに感じられたことが、わたし的には今日イチ嬉しかったって思います、はい(笑)!
――オリジナルの『フリーキッチン』と大きく変えられた点もありますよね
中村監督 基本的に8mmバージョンのも今回のも、割りと原作に忠実なんですが……ただ、女の子(カナ)の設定を多少変えたことと、ラストの展開も8mmの方では無かったです。原作はキャラクターのバックボーンが余り描かれていないんで、その辺は自由にやらせてもらってます。8mmバージョンも今回も自主映画なんですが、今回は撮影スタッフはプロの方にお任せしたので、演出の事だけに集中できました。主人公のミツオは高校生なんですけど、8mmバージョンでは適役がいなくて、僕が演ってたんです。お母さんも比較的若い人だったので、どう見ても親子に見えなかったり……なにしろ自分が演ってたって言うのが、本当に心残りで(場内笑)、「もう一回やりたい!」って強い思いがあったんです。今回撮ったのも、実はもう既にやり直したい箇所が……まだ演出が行き届いてないので、やり直したいなぁ、と思ってて……リメイクって、何本まで大丈夫なんですかね(笑)?
――……一回でしょ、やっぱり(笑)
大貫 リメイクで、カナを代えないでくださいね(笑)!
――映画祭や公開で、お客様から色々な反応があったんじゃないですか?
中村監督 笑っていただけるポイントが、会場によってバラバラだったりしました。本当に反応がない回もありましたし……その場の空気がそうさせるのか、分からないですけど
大貫 クスッとなってもらえると、嬉しいです(笑)
中村監督 コメディとは言え、そんなに爆笑できる様な感じじゃなく淡々としているので……そこが上手く届くと、凄く嬉しいですね
――『フリーキッチン』のタイトルに込められた意味は?
中村監督 原作のタイトルだとネタバレになっちゃうんじゃないか?と言うのと、そんなタイトルのAVか何かがあって、これはちょっと……と(場内笑)。雑誌を読んでて“フリーキッチン”って単語を見つけて、意味と言うよりも言葉の響きから付けさせてもらったんです
大貫 初めて聞きました、そのストーリー(笑)。由来を聞けて、よかったです
――大貫さん、カナの役作りには苦労されたんじゃないですか?
大貫 カナは、ミツオくんを変化させる存在としての役割なんですけど……意外と、裏が見えない笑顔の普通の女の子の方が面白いんじゃないかと思って、監督とも色々話して……
中村監督 出来るだけ普通に、と言うことで……
大貫 はい。普通を心掛けて、演じました
大貫真代は、名古屋のボーイズグループ【BOYS AND MEN】主演のオムニバス作品『キスのカタチ』の一本にヒロイン役で出演しているとか。『キスのカタチ』は今春配信予定なので、チェックしてみては。
また、福満しげゆき『生活【完全版】』を原作とした『ヒーローマニア ―生活―』(監督:豊島圭介)が2016年5月7日に全国公開となる。こちらの作品には『フリーキッチン』でも撮影を担当した神田 創が、同じくカメラマンとして参加しているそうだ。『フリーキッチン』撮影中に「続けて福満しげゆき原作映画のオファーが来た」と驚いていたとか。
そして、『フリーキッチン』は今後も上映が続く。3月19日からはフォルツァ総曲輪(富山県 富山市)で公開が決まっているそうで、中村監督も舞台挨拶に立つ予定と言う。富山は中村監督の地元県なので、こちらも盛り上がること間違いなしだ。
名古屋シネマテークは、レイトショーで2月12日(金)まで。
ミツオの生活は誰も経験したことのない特殊なものであるが、とかく思春期とはそう言うものだ。小さな笑いが散りばめられた、暗く沈んだ心の闇、そして背中を駆け上ってくる狂気――『フリーキッチン』を観て、疑似体験、追体験してみると良い。
あなたは、ちゃんとしましたか――親離れを――?
取材 高橋アツシ