1%と引き換えに、彼は何を失うのか『ドリームホーム 99%を操る男たち』レビュー


ドリーム ホーム_メイン
2008年のリーマンショック後、大不況の嵐が吹き荒れたアメリカでは、多くの人々が住宅ローンの返済不能に陥り自宅を差し押さえられた。
シングルファーザーとして一人息子を育てるデニス(アンドリュー・ガーフィールド)は、腕の良い職人だが、不況のあおりを食って仕事は激減、ローンの返済が滞ってしまう。

ある朝、保安官と共に不動産ブローカーのリック(マイケル・シャノン)が訪れ、数分の猶予だけで自宅から退去するよう命ぜられてしまう。
抵抗むなしく自宅を失ったデニスは、息子と母親(ローラ・ダーン)と共にモーテルに身を寄せることに。
家族のために必ず自宅を取り戻すと決意したデニスだが、仕事はなかなか得られない。
そんな中、デニスはたまたま再会したリックから彼の部下として働く申し出を受ける。それは、自分と同じ立場の人々から、住宅を差し押さえることを意味していたーー。

「世界中の富の4分の1をたった1%の最富裕層が所有しており、残り99%は貧困である」という推計をベースにした本作の見所は、自らも自宅から強制退去させられた青年が家族のため、自分達を追い出した憎むべき不動産ブローカーの右腕として頭角を現し、人々の自宅を差し押さえていく、というジレンマだ。
自宅を奪われる住人の怒りや悲しみ、絶望に直面し、心情を痛いほど理解するデニスは激しい罪悪感に苛まれ、愛する息子や母に真実を話せない。一方で富を得る悦び、優越感、家族に自宅を取り戻したい思いとの狭間で揺れ動く。

一方、デニスと対照を成すのが冷徹な不動産ブローカー、リックだ。
頭が切れ大胆不敵、違法なやり方も厭わない。自身も貧しい生まれではあるが、決して他人に情けをかけることはない。
豪邸での裕福な暮らし、可愛い子供たちに美しい妻、女をはべらせての乱痴気騒ぎ。まさに誰もが夢見る1%の富裕層の座を力づくで手にした男だ。
愛着ある自宅を何としても取り返したいデニスと、家を「ただの箱」と呼び無機質な商材として捉えるリック。正反対な二人の男の危ういビジネスは、リックがデニスにある違法な手続きを持ちかけることで決定的な局面を迎えてしまう。

デニスを演じるのは『アメイジング・スパイダーマン』のアンドリュー・ガーフィールド。
本作ではこれまでの繊細でソフトなイメージを覆すような骨太の演技を見せつけ、新たな魅力を開拓している。
リック役には『マン・オブ・スティール』のマイケル・シャノン。演技派の真骨頂を発揮し、憎たらしいまでの存在感を強烈に放つ。
また、デニスの母親役で『わたしに会うまでの1600キロ』のローラ・ダーンも出演している。

本作は重厚な社会派サスペンスというだけでなく、家族とその思い出の象徴であり、時には住む人のアイデンティティーとすらなり得る「家」というものの意義を、改めて深く考えさせられる作品だ。

小林サク

『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』
出演:アンドリュー・ガーフィールド/マイケル・シャノン、ローラ・ダーン
監督:ラミン・バーラニ/脚本:ラミン・バーラニ、アミール・ナデリ
www.dreamhome99-movie.com
©2014 99 Homes Productions LLC All Rights Reserved
2016年1月30日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次公開!

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