今や世界的関心事となった難民、移民問題。日本人に日常的に実感する機会は乏しいが、ヨーロッパに暮らす人々にとっては生活に直結する問題だ。難民受入を拒否する国、受け入れる国、それぞれ言い分と事情が絡み合い、もはや一筋縄では解決できない。そのような情勢に一石を投じるでもなく、問題提起するわけでもなく、淡々とその日常を映した映画が、ここにある。前作『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』で、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したジャンフランコ・ロージ監督の最新作ドキュメンタリー『海は燃えている イタリア最南端の小さな島』だ。

イタリア最南端、地中海に浮かぶランペドゥーサ島。漁で生計を立てる、昔ながらの暮らしが残る地だ。父親と祖母と暮らす12歳の少年、サムエレの毎日をカメラは追う。サムエレはパチンコ遊びに夢中な元気な男の子だ。サムエレのおじさんは昔、長い長い航海に出ていた。サムエレはおじさんの想い出話に聞き入り、おじさんのイカ漁の手伝いもする。島のラジオ局は音楽を流し、時にはリクエストを受け付ける。島民は漁に精を出し、海が荒れる日は休み、自然と共に生きる穏やかで変わらぬ生活だ。

だが、ランペドゥーサ島には全く異なる顔がある。地理上、アフリカ諸国や中東から海を渡る難民、移民達の玄関口になっているのだ。島には無線施設が立ち並び、連日連夜何百人と難民の乗った船から救助要請を受ける。緊迫する救助活動、生き残った人々の事務的な振分け作業、亡くなった人々の遺体の処理……。ランペドゥーサ島では、それらが日常的に行われている。

それはサムエレたちが過ごす島の日常とは全く異質なものだ。島民のマンマがキッチンで料理をしながら聴くラジオは、昨夜難民250人を乗せた船が沈没したと手短にニュースを伝える「なんて恐ろしい!」ーーそれ以上でもそれ以下でもない。何しろ難民は海上で保護された後、島内のセンターに移送、その後シチリアに送られるため、島民たちには預かり知らぬことなのだ。同じ島を舞台に、サムエレたち島民と難民たちの人生は決して交差することはない。

本作は、批判でも非難でもなく、ただ決して交わらない二つの流れを鮮やかに映し出す。地に足のついた島民の生き生きした笑顔と、命を懸け海を渡った難民の疲労と不安と希望の混濁した表情が対照的だ。きっと世界には、こんなふうに決して交わらないことはたくさんある。それでもなお世界は続き、無関係なようでいて、きっとお互いに作用しあうのだ。

イタリア首相マッティオ・レンツィも絶賛し、移民政策が議題のEU首脳会談で本作のDVDを27人の全首脳に手渡したという。アカデミー賞外国語映画賞イタリア代表にも選出されドキュメンタリー部門にノミネートされた、世界中から注目を浴びる作品なのだ。初見の際、あまりにも巧みな構成に演出が施されたのかと思ったほどだが、理由は別にあった。監督のジャンフランコ・ロージは、製作のためになんとランペドゥーサ島に移り住み、時間をかけて島に馴染み、サムエレたち島民と親交を深め、その信頼のもとで撮影された作品なのだ。真実を捕らえるための監督の深い情熱と誠意に頭が下がる。

あららゆる先入観を取り払い、ただ真実だけを映し出す。これぞドキュメンタリーの真髄ではないだろうか。あなたの目で、ぜひ飾りのない真実を捕らえてほしい。

文:小林サク

『海は燃えている イタリア最南端の小さな島』
2月11日よりBunkamura・ルシネマ
­2月25日より­名演小劇場 ほか­全国順次公開
配給:ビターズ・エンド
http://www.bitters.co.jp/umi/
©21Unoproductions_Stemalentertainement_LesFilmsdIci_ArteFranceCinéma

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